前回は3つ目の事例として、地方の会社が団結して持ち株会社を設立し、大手に対抗したケースを紹介しました。今回は、この事例におけるそれぞれの企業の狙いなどを見ていきます。

「守りのためのM&A」で規模のメリットを得る

前回の続きです。もうお気付きと思いますが、この持ち株会社を設立して株式交換でM&Aを行うというスキームは、規模のメリットを活かして生き残りを図るというものでした。

 

化粧品や日用雑貨の卸は、もともとが薄利多売の事業です。大手ならともかく、中堅以下の会社には一般に価格決定権もなく、将来有望とも言いがたいかもしれない状況でした。そして、大手の地方進出という状況もあります。

 

A~Eの各社は、それぞれのエリアではナンバー1か2番手のポジションにいたとはいえ、業界ナンバーワンや2番手の会社が地元に進出してきたら、ひとたまりもありません。つまり、このスキームは、いつの日か現実になるであろう大手の来襲に備えた、「守りのためのM&A」でもあったのです。

 

なおこのようなスキームでは、持ち株会社設立後に、当初の参画組であるA~E社以外に、新たにフランチャイジーを募るというビジネスモデルを組み立てることも可能です。

地方ならではの濃密な関係が導くWIN-WINの結論

当社では、このような「地方連合による守りのM&A」を幾つか経験してきました。

 

一つは石川県を中心に、医薬品卸業の会社を複数集め、やはり持ち株会社を設立しました。県外からの参加企業もあり、大手の製薬卸にも対抗できるくらいの規模になりました。また、重複していた営業所を閉鎖するなどで、ムダの削減にも効果がありました。

 

その他、持ち株会社ではなく通常の株式譲渡によるM&Aの例ですが、富山の食品スーパーが石川の食品スーパーを買収したケースにも関わりました。

 

水平統合によるブランド力、規模強化の例ですが、偶然にもこのスーパー2社は、北陸地方の同一グループ内のスーパーでした。そして、大手の進出が現実のものとなっており、M&Aによって大手への対抗を図ったのです。このときは、複数のスーパーマーケットを運営するグループ本社から感謝され、その後もいろいろと相談を受けるようにもなりました。

 

この例で、もし石川の食品スーパーが清算・廃業したり、北陸が地盤ではない都会の大手企業に買収されていたりしたら・・・。そう考えると、グループ本社から感謝された理由も自ずと明らかです。

 

仮にですが、イオンやセブンアンドアイ・ホールディングスがもし代わりに進出してきていたら、北陸地方の企業のパイはそれだけ減るばかりか、一つの進出が橋頭堡になって、さらなる進出があるかもしれないからです。

 

いかがでしょう。単独ではさほどの規模ではない地方の企業でも、複数の会社が手を取り合うことで、生き残りを図るばかりか、大手に伍して事業を続けていくことが可能となるのです。

 

地方の人間関係は、ビジネスのうえでも一般に都会より濃密です。付き合いのうえで面倒なこともあるかもしれませんが、よい方向に持っていくことで、ウインウインの関係を築き上げることができる一例です。

本連載は、2013年9月20日刊行の書籍『会社を息子に継がせるな』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

会社を息子に継がせるな

会社を息子に継がせるな

畠 嘉伸

幻冬舎メディアコンサルティング

現在、9割の中小企業経営者が後継者不在という問題を抱えています。息子がいない、いても“家業"に興味を示さない、あるいはオーナー社長が手塩にかけてきた会社を任せられるほどの才気がない。だからといって、廃業を選んでし…

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