地方の中小企業を「売り手」とするM&Aが脚光を浴びる理由

M&Aは、マッチングが適切であれば「売り手」と「買い手」の双方に多大なメリットをもたらすものであり、中小企業のオーナー社長にもその認識が浸透しつつあります。今回は、地方の中小企業を「売り手」とするM&Aが注目される理由なども見ていきましょう。

買い手企業から見たM&Aのメリットとは?

買い手の会社から見た場合も、M&Aによるメリットがあります。一つは効率よく経営資源を取得できるというメリットです。売り手の会社が持っている技術や人、地域に支持されているサービス・・・。これらを一から作り上げるのには時間と費用がかかります。

 

M&Aを利用して売り手の会社を買収することで、手間隙をかけずに効率よく欲しいものを手に入れられるわけです。また、M&Aによって買い手の会社のスケールメリットが増すだけでなく、事業の複業化や多角化にも役立ちます。

 

例えば、東京のタクシー会社が埼玉や千葉の同業の会社を買収することで営業エリアが広がり、エリアごとで定められた営業車両の数も増やすことができます。また、食品の製造を行っている会社がスーパーや小売店を買収することで、ダイレクトに消費者に商品を届けることができ、利益率アップに貢献します。仮に何らかの理由で食品製造が不振に陥っても、販売のほうで帳尻を合わすなど、リスクのヘッジになることもあります。

 

このように、売り手と買い手の双方にとって、M&Aは魅力的です。マッチングさえふさわしければ、双方に多大なメリットをもたらすのです。かつては「敵対的買収」というイメージが先行しがちだった時期もありますが、こういったメリットが中小企業のオーナー社長の間にも広まり、M&Aを積極的に活用する例が増えています。

時代の変化が「短所」を「長所」にすることもある

例えば昨今、小売業の中ではインターネット通販が著しく伸びています。ユーザーの欲望を満たすためには、安くて良い物だけでは足らず、ネット通販の拡大と共に「早く」が大事な差別化要因になりつつあります。それを見越した宅配大手など物流各社は、新たに地方に倉庫を設けるなど、物流拠点の確保に力を入れています。いまや翌日配達は当たり前で、今後はいかに当日配達を可能にしていくかが焦点です。このような背景から、地方にある工場や遊休不動産が思わぬスポットライトを浴びることがあるのです。

 

高度成長期には羽振りのよかった地方の製造業の企業の中には、安い海外製品などに押されて業績が低迷しているところもあります。人員や設備を縮小し、不動産は売るに売れず休眠状態・・・。そんな地方の企業や工場を、都会の物流企業などが買いたいと申し出るケースがあるのです。地方企業のオーナー社長としては、思いもしない申し出かもしれません。というのも、同一エリアや同業種の間では事業の不振はいわば当たり前のこと。知り合いの範囲だけで考えていると、「買い手」など現れるはずもないのです。

 

ところが、エリアや業種が異なる企業からすれば、売り手がときに〝お荷物〟とさえ感じている資産などが魅力的に映ることもあるわけです。以上は一例ですが、M&Aのマッチングにはさまざまな可能性があることを示唆してくれています。いまや会社を売る側の意識としても、事業承継や経営戦略の一環として会社の売却を検討することに、かつてほどの抵抗を感じなくなってきています。

地方で頑張る中小企業が「売り手」となるケースも多い

大企業だけでなく中小企業の間でもM&Aが認知され、件数も増えていることを見てきました。そうはいっても「地方の企業にはお声がかりは少ないのではないか」と感じるオーナー社長もいるかもしれません。事実はまったく逆で、地方で頑張る中小企業が売り手となり、別の地方の企業や都会の企業が買い手になるという例は多いのです。

 

一般に地方では企業間の競争が都会に比べて緩やかなため、儲かっている企業は多いのです。そんな地方の中小企業の技術やサービス、さらには営業権や資格(客足の多い商店街での販売の権利やタクシーの営業権、専門学校を含めた学校法人や介護施設、調剤薬局など)を求めて、都会などの企業が触手を伸ばすのです。

 

観光を例にとれば、よりわかりやすいと思います。田舎の民宿やペンションに、わざわざお金を払って農作業体験に訪れる都会の宿泊客がいます。また、北海道の根室などでは、漁船を利用したバードウオッチングのクルーズが人気を博しています。洋上を羽ばたく鳥は、日ごろから慣れた漁船に寄ってきたり止まったりし、それが都会のバードウオッチャーに受けているのです。つまり、地元ではさほど価値がない、価値に気付かないようなことが都会の人や企業には魅力に映るということです。

 

自民党政権は、成長分野の一つとして農業を掲げ、輸出を含めた攻めの農業を推奨しようとしています。同時に、単に生産するだけに留まらず、加工や流通・販売まで含めた第一次産業の「6次産業」化を進めようとしています。株式会社化や大規模化も、今後はさらに進んでいく勢いです。製造業や販売業、サービス業に留まらず、今後は地方の第一次産業とその関連産業もM&Aの対象となっていくはずです。

 

独自の風習や文化の中で地域に支持されてきた中小企業。それらの企業が他地域や都会の企業に買収され、新資本の下で事業を続けていく。言い換えればそれは、新しい血や風が入ってくるということです。単に資本が変わるだけでなく、これまでと異なったビジネスモデルや社風が入り込んでくるわけです。

 

そのため、地方企業を絡めたM&Aのマッチングを考える際は、売り手と買い手の双方のメリットとシナジー効果についてよく見極める必要があります。例えば買い手企業が資金力にものをいわせて強引にM&Aを進めたり、買収後に売り手側の従業員に厳しい処遇を行ったりすることで、「ヒドイ会社だ」という評判が立ち、買い手企業の事業活動自体が成り立ちにくくなることさえあります。

 

地方の企業が売り手になる場合は、売り手の成り立ちやこれまでの軌跡、また地域で果たしてきた役割などを尊重してくれる買い手を見つけてマッチングしていく必要があるのです。

本連載は、2013年9月20日刊行の書籍『会社を息子に継がせるな』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「相続・事業承継」この記事を読んだ方はこんな記事も読んでいます

「M&A」この記事を読んだ方はこんな記事も読んでいます

連載勝ち残る中小企業のM&A活用法

株式会社スターシップホールディングス 代表取締役兼CEO

税理士・米国公認会計士。東京の独立系M&A専門会社にて、後継者難の企業に対するM&Aコンサルティング、M&Aによる企業再建コンサルティングを手掛ける。その後、監査法人系公認会計士事務所にてベンチャー企業の新興市場への公開支援業務、企業価値評価業務を手掛ける。

著者紹介

会社を息子に継がせるな

会社を息子に継がせるな

畠 嘉伸

幻冬舎メディアコンサルティング

現在、9割の中小企業経営者が後継者不在という問題を抱えています。息子がいない、いても“家業"に興味を示さない、あるいはオーナー社長が手塩にかけてきた会社を任せられるほどの才気がない。だからといって、廃業を選んでし…

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧