電子記録債権をベースにした企業間決済のプラットフォーム構築を手掛けるTranzaxの小倉隆志社長と国際金融・決済を専門とする宿輪純一・帝京大学教授が、フィンテックが切り開く新たな決済の仕組みを明らかにする本企画。第3回目はフィンテックで成長する「付帯業務」と、その課題について語っていただいた。

世界の投資銀行の運用は、ほぼ「ロボット」任せ!?

小倉 前回、フィンテックの3つの注目分野のうち金融業務(銀行業務)についてお話いただきました。では、それ以外の2分野である付帯業務仮想通貨であれば伸びしろはありそうですか?

 

宿輪 付帯業務というのは非常に幅が広いんです。指紋認証システムや静脈認証システムといった認証システムから、運用のシステム化や支払い管理のシステム、ロボアドバイザーなども含まれる。それこそ、「家計簿アプリ」も言ってみればフィンテックなんです。そういった金融に付帯するさまざまなサービスを見てみると、フィンテック3分野のなかでは最も進んでいる分野と言っていいでしょう。

 

数多くの認証技術がすでに実用化されているし、領収書を画像認識して入力するなど、支払い等の入出金管理を行うためのサービスも登場しています。パソコンやスマホから自分に最適な投資信託や資産運用のアドバイスをしてくれるロボアドバイザーもすでにサービスが開始されている。SBI証券のサービスは開始2か月で1万口座を突破したとニュースになっておりました。

 

そもそも世界の投資銀行を見ると、ほとんど運用はロボット任せです。独自の金融アルゴリズムに基づいて、ミリ秒単位の高速取引を繰り返すHFT(High Frequency Trading)がマーケットの出来高の大半を占めているわけですから。ただ、さらに伸びしろがあるかと聞かれると、私は懐疑的に見ています。

 

帝京大学経済学部教授 宿輪純一氏
帝京大学経済学部教授 宿輪純一氏

 

「ロボアドバイザー」が日本にそぐわない理由

小倉 それはなぜですか?

 

宿輪 認証システムは新しいものが出るたびに実用化され、古いものと取って代わっていくでしょう。支払い管理システムも新たなものが今後いくつも出てくるのでしょう。ただ、それらはIT化の延長線にあるものにすぎず、フィンテックという言葉生まれる以前から、日進月歩の進化を遂げてきたものなのです。一方で、新しいサービスとして注目を集めるロボアドバイザーは、日本にそぐわないように感じています。

 

小倉 それは証券会社に勤めていた私も感じています。相場は儲かりもすれば、損もする。投資は絶対に利益を生み続けるものではないのです。損失が出たときにお客さんが「どうしてくれるんだ!」ってクレームを入れてきたら、どうするんだろう?と思うわけです。証券会社は「ロボが悪い」と逃げるんでしょうか。クレーム処理もロボにやらせるのでしょうか? そうしたら結局、人が出てこざるをえない。

 

たとえば、ロボアドバイザーを利用するに当たっては、「あなたはリスクを好みますか?」といったアンケートに答えて、運用方針を決めるんです。でも、そうした運用スタイルを自分で認識できている人はロボアドバイザーなど利用しません。なぜなら、リスクを好む人は自ら個別株を売買して、リスクを取らない人は国債や外債など低リスクの商品を自ら選ぶ。

 

つまり、「余裕資金があるけどどうやって運用したらいいかわからない」という人に、いかに適切な商品を紹介するかが重要なのに、ロボには相談に乗ることができない。アンケートを窓口にして、ロボがカバーしている商品にお客さんを誘導しているようにしか思えないのです。

 

Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏
Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏

 

宿輪 おっしゃるとおりです。結局、最終的なフォローを人がやるのであれば、本末転倒ですよね。だから、ある程度の業務効率化には繋がっても、日本では浸透しにくいと感じています。ただ、アメリカやヨーロッパは少々、事情が異なる。というのも、アメリカやヨーロッパは、ファインシャルプランナー(FP)が非常に多いうえに報酬が高い。

 

アメリカの場合は、ファイナンシャルアドバイザー(FA)というほうが一般的なのですが、そのFAが個人向けに大学資金の積み立て計画から保険のセレクト、介護のプランニングまで幅広く行っているケースが多い。だからおのずと、FP・FAに支払われるコストが非常に高いんです。つまり、資産運用に関してはロボに任せて、コストを下げようという取り組みが進みやすかった。

 

アメリカは株が運用先の8割近くを占めていますからね。金融資産の構成比率で現金・預金が50%以上を占める日本とは、まったく文化が異なる。だから、ロボアドバイザーは資産運用に積極的な人が多い欧米であれば、まだまだ伸びしろがあると言っていいでしょう。しかし、ロボアドバイザーは、リスクが高い方がいいですか、外貨がいいですか、株式がいいですか、と聞いてきます。実際は、そこまで、運用方針を決めているならば、自分でやりますよね。問題は方針を決められない人にアドバイスできるかという点が重要なんです。

 

取材・文/田茂井 治 撮影/永井 浩 
※本インタビューは、2017年4月26日に収録したものです。