成人の子どもが実家で同居すること自体は珍しくありません。しかし、親が高齢になり年金生活へ移行しても子どもが経済的に自立しない場合、家計や関係性に深刻な影を落とします。「親の面倒を見る」という言葉の裏で生じる意識のズレとは。ある家族の葛藤を通じ、高齢の親と中年の子が直面する自立と介護の課題を考えます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「頼むから出て行ってくれ」年金16万円・74歳父が48歳長男に懇願。「介護するから」と生活費を1円も入れず実家に居座る息子に、年金暮らしの両親が突きつけた現実 ※写真はイメージです/PIXTA

「将来、介護が必要になったら安心だろ」48歳息子の言い分

「将来、俺たちの介護が必要になったら、家にいてくれたほうが安心だろ」

 

そんな言葉を口にする息子を、親はいつまで受け入れられるのでしょうか。

 

子どもが成人しても実家で暮らすこと自体は、珍しいことではありません。仕事や経済的な事情、親の介護など、同居を続ける理由は家庭によって異なります。

 

ただし、親が高齢になり、年金を中心とした生活に移行しているにもかかわらず、子どもが生活費を負担せず、親の経済的な支えに頼り続けている場合は話が変わってきます。

 

東京都内に住む加藤茂さん(74歳・仮名)は、妻の幸子さん(72歳・仮名)と、長男の大輔さん(48歳・仮名)の3人暮らしです。

 

大輔さんは独身で、これまで一度も実家を出たことがありません。大学卒業後、会社員として働いていますが、家計にお金を入れたことはありません。

 

食費や水道光熱費、日用品の購入費などは、すべて茂さん夫婦が負担しています。大輔さんが親に小遣いをせびることはないものの、自分の給料は自分のために使っているようでした。

 

茂さん夫婦も、息子に強く不満をぶつけてきたわけではありません。

 

「独身ですし、家賃を払って一人暮らしをするより、実家にいたほうが貯金もできるのでしょう。こちらも、息子に出て行けとまでは言いませんでした」

 

現在茂さんが手にする年金は月16万円程度。幸子さんが受け取る月8万円の年金と合わせて、家族3人の生活を支えています。しかし現役時代と違い、毎月の収入には限りがあります。住宅の修繕費や医療費など、これから必要になるお金も考えなければなりません。

 

それでも、大輔さんは家計の状況を気にする様子がありませんでした。

 

「食事も洗濯も、母親がやってくれるのが当たり前になっていました。私たちも、これまで何も言わなかったので、本人にしてみれば不満はなかったのでしょう」

 

茂さんが一度、生活費を少しでも負担してほしいと伝えたことがあります。すると、大輔さんはこう答えました。

 

「俺だって、この家に住んでいるんだから、将来、介護が必要になったときには役に立つだろ。年金で3人分の生活費がどうにかなっているなら、今から家にお金を入れる必要はないんじゃないか」

 

茂さんは、その場では言い返せませんでした。親の面倒を見るつもりがあるという言葉を、無下にすることもできなかったからです。

 

しかし、考えてみれば、大輔さんはこれまで家事を積極的に手伝ったこともありません。両親の通院に付き添った経験もほとんどありませんでした。

「正直、息子の言っていることを信じられなくなっていました」