長年暮らしたマイホームも、年齢を重ねるにつれて、安心して暮らせる場所とは限らなくなります。家の修繕や管理にかかる費用、日々の生活で感じる不便さ。夫を亡くし、一人暮らしになった高齢者にとって、住まいの維持は切実な問題です。持ち家を手放して賃貸住宅へ移ることに、ためらいを感じる人もいるでしょう。老後の住まいを考えるうえで、何を基準に選べばよいのでしょうか。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「もうダメかもしれない…」50年過ごしたマイホームを手放した〈年金月12万円・78歳女性〉、市営団地に移って気づいた「意外な快適さ」 ※写真はイメージです/PIXTA

何度目かの抽選で市営団地に当選…家賃を払っても「こちらのほうが快適」

和子さんが候補にしたのは、市営団地。民間の賃貸住宅も検討しましたが、できれば、年金月12万円で日々の生活費は賄っていきたい。そう考えると、固定費となる家賃はできるだけ抑えたいと考えました。

 

公営住宅は、住宅に困窮する低所得者などを対象とする住宅です。入居には収入などの条件があり、希望すれば必ず入居できるわけではありません。自治体や住宅ごとに募集方法や条件が異なります。

 

国土交通省『住宅・土地統計調査』によると、2023年時点で65歳以上の単身世帯のうち、公営住宅に住む世帯は約61万5,000世帯。高齢者の住まいの選択肢として、公営住宅が一定の役割を果たしていることがわかります。ただし、募集戸数には限りがあり、地域や住宅によっては入居まで時間がかかることもあります。

 

「公営住宅っていうと、不便とか、古いというイメージだったんだけど。リフォームして、おしゃれな団地もあるのね。少し家賃は高くて、倍率も高いけど」 実際、和子さんも、何度か抽選に落ちたそうです。しかし落選にめげず、募集のたびに応募し続けたところ、何度目かの抽選で、ようやく入居が決まったとか。

 

新しい住まいは、以前の一戸建てよりもコンパクトです。庭の手入れは必要なくなり、使わない部屋の掃除に時間を取られることもありません。しかし、敷地内には住民でつくる花壇があり、休日には老若男女が集まり、きれいに整えるのだとか。このような活動を通して、自然と顔なじみも増えていったといいます。

 

また、駅から離れ、基本的にバス利用ではあるものの、週に2度ほど移動販売車が来てくれるのもうれしい限り。さらに、かかりつけ医は徒歩圏内で、転居前よりも便利だといいます。

 

「マイホームにこだわっていたときもあったけど、手放すと意外にも快適でした」

 

内閣府『令和5年度高齢社会対策総合調査』によると、高齢者が現在の住宅に感じる問題点は「住まいが古くなり、いたんでいる」(29.5%)が最多で、「段差や階段等があり使いにくい」(12.7%)などが続いています。


また、住み替えの意向を持つ理由としては「健康・体力面で不安を感じるようになったから」(24.8%)や「自身の住宅が住みづらいと感じるようになったから」(18.9%)が多く挙げられています。


持ち家の維持管理費や清掃等の負担が増すなか、身体機能の変化に合わせて公営住宅など適正規模の住まいへ転居することは、老後を安心して快適に暮らすための現実的な選択肢といえます。