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「しばらく置いてほしい」長女と孫が突然、実家に戻ってきた
「お父さん、しばらくここに置いてもらえないかな」
72歳の佐藤茂さん(仮名)は、42歳の長女・愛さん(仮名)からそう頼まれた日のことを覚えています。愛さんは8歳の息子・蓮くんを連れ、実家に戻ってきました。夫との関係が悪化し、離婚を決意したというのです。
佐藤さん夫婦は、2人合わせて年金月26万円と貯金2,000万円を頼りに暮らしていました。住宅ローンはすでに完済。派手な暮らしを望んでいるわけではありませんが、旅行に出かけたり、家の傷んだ部分を修繕したりと、これからの生活を楽しみにしていました。
愛さんは帰ってきた当初、「3ヵ月もしたら、離婚話は落ち着くから」と言っていました。茂さん夫婦にとって孫の蓮くんと一緒に暮らせることはうれしく、食事の支度や学童の送迎など、できる範囲で手伝うつもりでした。
ところが、離婚の話し合いは思うように進みません。愛さんと夫の間では、離婚そのものに加え、親権や養育費についても折り合いがつきませんでした。愛さんはパートの仕事を始めていましたが、家賃を払って子どもを育てながら、新しい生活を続けられるほどの給与はありません。自活するには、フルタイムの仕事に就く必要があるでしょう。しかし、長いキャリアの中断がある愛さんにとって、それは簡単なことではありませんでした。
「もう少しだけ待ってほしい」
愛さんの言葉を聞くたびに、茂さんは返事に困りました。いつまで同居が続くのか、愛さんはどこで暮らすのか。見通しが立たないまま、日々が過ぎていきます。
娘や孫のためにお金を使うこと自体は、苦ではありません。食費や光熱費が増えたとしても不自由な思いをさせたくないという気持ちはありました。ただ、苦ではないのは一時的な出費に限った話です。これから何年続くかわからないとなると、話は別です。年金と貯金で、娘と孫を支え続けることはできるのか――その不安を、茂さんは妻にもなかなか打ち明けられませんでした。
厚生労働省『令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果』によると、母子世帯における平均年間就労収入は236万円(手当等を含む平均年間収入は272万円)にとどまり、就業者のうちパート・アルバイト等の非正規雇用が38.8%を占めるなど、離婚後に十分な収入を得て自立することの厳しさがうかがえます。
また、同調査では同居親族を含む世帯全員の平均年間収入は373万円となっており、実家同居など親世代の経済的支援が大きな支えになっている実態を示す一方、支援が長期化した場合に親の老後資金を圧迫する要因にもなり得ます。
愛さんの今後の収入や養育費の額が確定しない以上、茂さんも、いつまでどの程度の援助が必要になるのか判断できませんでした。