定年後の暮らしを考え、自然豊かな地方への移住に関心を持つシニア世代は少なくありません。一方で、車がないと不便ではないか、地域になじめるのか、広い家の維持管理はできるのかと、不安も尽きないものです。年金生活を見据えた移住では、住まい選びだけでなく、地域とのつながりや外部サービスの活用まで考えておくことが大切です。では、無理なく田舎暮らしを楽しむには、どのような準備が必要なのでしょうか。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「地方移住なんてやめたら?」〈年金月26万円・退職金1,800万円〉60代夫婦、忠告聞かずに「地方の広い平屋へ転居」。半年後に訪ねた娘が目にした「予想外の光景」 ※写真はイメージです/PIXTA

地方移住を止める長女を無視した60代夫婦

「地方移住なんてやめておきなよ。わざわざ不便なところに引っ越す必要なんてないじゃない」

 

田中麻衣さん(42歳・仮名)は、両親の地方移住を聞いたとき、生活の不便さを心配しました。

 

父の誠さん(68歳・仮名)と母の恵子さん(68歳・仮名)は、長年暮らした東京を離れ、地方都市の郊外にある平屋へ移ることを決めたのです。誠さんの年金は月17万円、恵子さんは月9万円。夫婦で月26万円です。会社員だった誠さんは退職時に1,800万円の退職金を受け取り、昔から蓄えてきた預貯金は1,500万円ほどありました。そのようななか、恵子さんもパートの仕事を辞めて年金生活に入りました。夫婦で過ごす時間が増えたことが、移住を具体的に考えるきっかけになったとか。

 

2人が望んだのは、庭で野菜を育て、子どもや孫が気軽に遊びに来られる暮らしです。選んだ平屋には、子ども家族が2組泊まれる部屋があり、トイレは2ヵ所、洗面台も広めに設けられていました。将来、階段の上り下りが負担になることも考えた選択です。

 

物件探しと並行して、自治体の移住相談窓口にも足を運びました。スーパーや診療所までの距離、公共交通機関の状況を調べるだけでなく、移住者向けの交流会にも参加。先に移住した人から、冬の生活や車の必要性、地域の付き合いについて話を聞きました。住宅の購入費や修繕費に加え、庭の管理や家事を外部に頼む費用も見積もりました。移住のための資金はもちろん、移住先での生活費、さらには再び住み替える場合も考えて、資金計画を綿密に立てました。

 

それでも麻衣さんには、広い家の掃除や維持管理が気がかりでした。

 

「そんなに広い家、掃除するだけでも大変じゃない?」

 

誠さんは「全部、自分たちでやるつもりはないよ」と答えました。普段の掃除や庭仕事はできる範囲で楽しみ、庭木の剪定などは業者に頼むつもりだったのです。