加齢に伴う記憶の曖昧さや気むずかしさは、最も身近で尽力している家族に矛先が向きがちです。どれほど尽くしても感謝と非難が交互に訪れる状況は、受け止める側の心を大きくすり減らします。事例をご紹介します。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したものです。
「娘が年金を全部持っていった」85歳母を喜ばせたくて寿司を取り、お気に入りレストランへ…「優しい娘で幸せ」と笑っていた母が、直後に54歳娘を絶句させた〈衝撃の一言〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

介護による共倒れを防ぐには

認知症の初期段階では、物忘れなどの記憶障害だけでなく、「物盗られ妄想」や「記憶の置き換え」、感情の起伏が激しくなる症状が顕著に現れることがあります。

 

特に、お金の管理や大切なものの保管において「自分が仕舞った場所を忘れる」と、脳が自身の失敗を認識できず、「一番身近にいる頼れる存在」に対して「盗られた」と被害妄想をしてしまい、攻撃の矛先を向けやすくなる特徴があります。また、過去の人間関係のトラブルについても、自己防衛の心理から記憶が歪められ、周囲のせいに仕立ててしまうケースも珍しくありません。

 

高齢者の生活実態と認知症介護を取り巻く環境を公的データから確認すると、介護を担う家族の負担感が大きいことがうかがえます。

 

総務省統計局『家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果』によると、65歳以上の単身無職世帯における月平均の消費支出は14万8,445円、非消費支出を加えた実支出は16万1,429円です。年金等の実収入(月平均13万1,456円)に対して毎月約3万円の不足が生じるなかで、金銭管理の不安や日常の生活費のやりとりは、高齢者本人にとって大きなストレス源となります。

 

また、厚生労働省『認知症施策推進総合戦略(2024年)』によると、認知症高齢者を在宅で支援する家族の約6割以上が「精神的な負担や疲労感」を抱えており、その要因の多くが「感謝されない徒労感」や「暴言・物盗られ妄想への対応」に集中しています。

 

「優しい娘で幸せだ」という言葉も、「底意地が悪い」という暴言も、その瞬間の本人の感覚としては偽りのないものですが、病気によって感情のブレーキや状況の辻褄を合わせる機能が低下しているために生じる現象です。

 

家族だけでこの感情の揺れを受け止め続けると、共倒れになってしまう危険性があります。お金の受け渡しや日々のサポートにケアマネジャーや地域包括支援センターなどの第三者を挟み、身内以外の目を入れることで矛先を分散させたり、介護者自身が親と一定の距離を保つ時間を作ったりすることが、長期間にわたる介護と自身の心を護るための現実的な対応策となります。

 

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