子どもの独立や配偶者の定年を機に、長年担ってきた家事や家族優先の役割から解放されたいと「熟年離婚」を選択するシニア女性は少なくありません。しかし、離婚後の生活は想像していたものとは違うということもあるようです。事例を見ていきましょう。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したものです。
「もう、夫のご飯の心配ばかりする生活はいやなんです」…年金月9万円・結婚からずっと専業主婦の67歳女性、年金月22万円・68歳夫と熟年離婚したあとの〈想定外〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

手に入れた自由の代償

月約13万5,000円の年金も、健康保険料や介護保険料などの社会保険料や税金が差し引かれると、手元に残る手取り額は月12万円程度。そこからアパートの家賃5万円を支払うと、残る生活費は7万円弱しかありません。電気・ガス・水道代や通信費、持病の通院費を支払うと、食費や日用品代は常にカツカツで、突発的な出費があればすぐに赤字へ転落してしまう水準だったのです。

 

「夫婦2人で月31万円あったころは、住居費や光熱費を引いても毎月ゆとりがありました。でも一人暮らしになると、家賃も光熱費の基本料金もすべて自分1人の年金から出さなければなりません。『年金が増えたから一人なら余裕』と思っていたのは、浅はかだったみたいです」

 

さらに正美さんを苦しめたのは、夜の静寂でした。

 

「テレビを消すと、聞こえてくるのは古い冷蔵庫のうなり音だけ。子どもたちにはそれぞれの生活があり、心配をかけたくなくて相談もできません。夫の食事の心配から解放されたはずなのに、今度は日々のやりくりと、将来倒れたらどうしようという不安ばかり考えています」

 

手に入れた自由の先に待っていた、ギリギリの家計収支と底知れぬ孤独。正美さんはスーパーの特売品を手に取りながら、複雑な胸中を抱えて暮らしています。

年金分割後の「世帯分離コスト」

制度面において、離婚時年金分割は専業主婦の老後生活を支える重要な仕組みです。婚姻期間中の厚生年金記録を按分割合(最大50%)でわけることにより、自身の基礎年金や過去のわずかな厚生年金しかなかった側でも、受給額を月数万円単位で底上げすることが可能です。正美さんのように月9万円から月13万円台へ受給額が増加するのは、年金分割の恩恵が機能した結果といえます。

 

しかし、問題となるのは受給額の「額面」と、単身生活にかかる「実支出」のギャップ。総務省『家計調査年報(家計収支編)2023年』によると、65歳以上の単身無職世帯における月平均の消費支出は約14万5,000円に達しています。これに対し、年金受給額が額面で13万5,000円程度の場合、社会保険料や住民税を差し引いた実際の手取り収入は月12万円前後にとどまるため、一般的な消費支出を満たすだけでも毎月2万〜3万円程度の赤字が生じる計算になります。

 

特に大きな負担となるのが「住居費」と「固定費」です。婚姻中は持ち家や公宅などで抑えられていた住居費が、離婚によって新たに民間賃貸アパートの家賃として恒常的に発生します。また、水道光熱費や通信費の基本料金など、世帯人数が減っても半減しない固定費が重くのしかかります。2人世帯であれば1つの住まいで合算して賄えていた生活インフラが、2世帯にわかれることで効率性を失い、1人あたりの生活コストが跳ね上がるのです。

 

配偶者への不満や家事負担からの解放を求めて離婚を選択することは人生の権利ですが、自由な生活を維持するためには、年金分割後の額面ではなく、税・社会保険料控除後の「手取り額」を把握し、民間の賃貸家賃を含めた収支計画を立てることをお勧めします。また、公営住宅の応募や高齢者向け家賃助成制度の有無を調べ、固定費である家賃負担を極力抑えるという選択肢もあるでしょう。

 

体力的に問題がない場合には、短時間でもアルバイトをすることで、月数万円の収入を得られれば、家計赤字を防ぐと同時に、地域社会との接点を維持して孤立を防ぐことにもつながります。

 

精神的な解放感を求めた熟年離婚が、老後の生活困窮という別の苦痛にすり替わってしまわないよう、離婚後の単身生活コストを客観的な数字で見積もることが大事です。

 

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