(※写真はイメージです/PIXTA)
夫の定年後、いっそう苦しくなった毎日のご飯づくり
「朝起きてから夜寝るまで、頭の中にあるのは『今日のご飯はなににしよう』ということばかり。自分のためではなく、常に家族の好みを優先し続ける日々に、もう耐えられなくなってしまったんです」
現在、都内の築30年を超える木造アパートで一人暮らす正美さん(67歳)は、そう打ち明けます。20代前半で結婚してから40年以上、外で働くことなく家庭を守り続けてきました。家事全般から2人の子育て、さらには義理の両親の看取りまで文句ひとついわずにこなし、周囲からは絵に描いたような良妻賢母と見られていました。
しかし、長男と長女が独立し、大手メーカーに勤めていた夫(現在68歳)が定年退職を迎えたころから、夫婦2人きりの空間に息苦しさを覚えるようになります。現役時代は仕事一筋だった夫は退職後に在宅時間が急増。会話はほとんどないにもかかわらず、1日3食の準備を当然のように求められる毎日が正美さんの心をすり減らしていきました。
決定打となったのは、ある日の夕食時のこと。無言でおかずと白米を平らげ、小鉢のひじき煮を無言で残し、なにもいわずに食卓から立ち去ったのです。
「いままでの我慢が一気に吹き出しました。私は栄養バランスや健康を考えて一生懸命作っているのに、夫にとっては当たり前に過ぎないんです。悪びれもせず、その日の味付けが好みじゃないからと平気で残さなくてもと思いました。そもそも、美味しいの一言くらいいえないんでしょうか。あと何年、夫の献立を気にしながら生きなければならないのかと思ったら、急に目の前が真っ暗になったんです」
数ヵ月におよぶ話し合いの末、正美さんは離婚を決断。夫は困惑したものの、妻の固い意思を覆すことはできず、熟年離婚が合意されました。
離婚後、年金分割の手続きを終えた正美さんの年金受給額は、月約9万円から月約13万5,000円へと増加しました。誰にも邪魔されず、好きな時間に起きて好きなものだけを食べる生活に、当初は「ようやく自由を手に入れた」と晴れやかな開放感を噛み締めていました。
しかし、その自由と引き換えに待っていたのは、想像をはるかに超える想定外の現実でした。