人手不足が続く職場では、退職者が出ても後任が決まらず、残った社員で仕事を回すケースがあります。新しい人材を採用できなければ、一人ひとりの業務量は増えていきます。責任感から引き受けた仕事がいつの間にか当たり前になり、気づけば自分の仕事だけでは手いっぱいに――ある男性の事例から、人手不足の職場で起きることを考えます。 ※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「さすがにもう無理だって…」〈月収36万円・35歳会社員〉、先輩社員が退職した次の日の朝、出社して目撃した「まさかの光景」 ※写真はイメージです/PIXTA

「また私ですか……」35歳会社員を追い詰めた職場の現実

「先輩が辞めたときは、みんなで仕事を分担して乗り切ろうという話だったんです。でも、結局ほとんど私に回ってきて……」

 

そう話すのは、都内の中堅企業に勤める山田翔太さん(仮名・35歳)。

 

新卒で入社して13年目。営業事務として、受発注の管理や請求書の作成、取引先からの問い合わせ対応などを担当しています。月収は約36万円。仕事に慣れ、社内の手続きにも詳しくなったことから、後輩の指導や部署内の調整を任されることも増えていました。

 

そのようななか、6人の部署でしたが、2年間で3人が退職。会社は求人を出しているものの、採用は進みません。入社した人が短期間で辞めてしまったこともありました。

 

「人が足りないのは分かっていました。でも、こんなに続けて辞めるとは思っていませんでした」

 

今年の春には、長年一緒に働いてきた先輩が退職します。上司からは「しばらくみんなでカバーしよう」と説明され、山田さんも引き継ぎを手伝いました。

 

ところが、先輩が担当していた取引先への対応や請求処理、社内資料の作成まで、次々と山田さんの仕事になっていきます。

 

「新しい人が入れば、少しずつ仕事を戻せると思っていたんです。でも、採用の話は進まず、仕事だけが増えていきました」

 

通常業務を終えてから引き継いだ仕事に取りかかるため、退勤時間も遅くなりました。月末には残業が続きます。同僚も自分の仕事で手いっぱいのため、気軽に頼ることもできません。

 

厚生労働省『令和7(2025)年 雇用動向調査結果の概況』によると、2025年の一般労働者の入職率は12.0%、離職率は11.4%でした。全国全体では入職率が離職率を上回っていますが、業種や企業によって状況は異なります。

 

そんなある朝、出社した山田さんは、自分の机に置かれた書類の束に気づきました。前日に退職した別の社員が担当していた業務の書類です。

 

上司に確認すると、「悪いけど、この件もお願いできるかな。君が一番詳しいから」と言われたのです。

 

「これも、私がやるんですか?」

 

思わずそう聞き返すと、上司は「今は人がいないから、何とか回してほしい」と答えたといいます。

 

「できる人に仕事が集まるのは分かります。でも、できるからといって、いくらでも仕事を増やせるわけではありません。もう無理ですよ……」

 

山田さんはその日も、自分の業務を終えた後に追加分を処理します。帰宅は午後9時を過ぎていました。