パートナーの転勤帯同に伴うキャリアの中断や、縁のない土地での孤立した育児環境は、共働きが主流となった現代において深刻なリスクとなりつつあります。事例を通して、個人の生き方や家族の生活基盤を揺るがす「転勤制度」の課題と、家庭内における防衛策について解説します。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したものです。
深夜帰宅した32歳銀行員夫の「俺だって遊びたい」に激怒…キャリアを捨てて転勤に帯同。見知らぬ土地で2児をワンオペで育てる31歳妻が、皿を投げたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

深夜の食卓、張り詰めた糸が切れた瞬間

ナオさん(31歳)は、地方都市の賃貸マンションで2人の未就学児を育てています。夫であるケンゴさん(32歳)が多忙なため、ほぼワンオペの育児です。

 

3年前、ナオさんが28歳のときに二人は結婚しました。都内の中小企業で正社員として働いていたナオさんは、メガバンクに勤務するケンゴさんからプロポーズされます。

 

「地方支店への転勤が決まった。一緒についてきてほしい」

 

ナオさんの勤め先は、リモートワークに対応していない職場だったため、仕事を続けることは叶わず、退職を選択。「新しい土地でも、また正社員として前職と同じくらいの給与で働ける場所を探そう」と前を向いていました。

 

しかし、見知らぬ地方都市での転職活動は、思うようにはいきません。採用面接で「夫が数年以内に再び別の地方へ転勤する可能性がある」と伝えたことが原因かどうかはわかりませんが、どの企業からも採用を見送られてしまったのです。キャリアの継続を阻まれ、慣れない土地で孤立感を深めるなか、転居から半年後に第一子の妊娠が判明。ナオさんは外で働く道をいったん諦め、しばらくのあいだは家庭に専念することを決めました。

 

ところが、そこから始まったのは終わりの見えないワンオペ育児でした。

 

地方支店で仕事に追われるケンゴさんは、平日は毎日のように日付が変わる直前に帰宅し、土日も接待ゴルフや資格試験の勉強で留守がち。周囲には両親も友人もおらず、土地勘すらない環境で、ナオさんは一人で子どもと向き合い続けました。さらにその1年半後には第二子を出産。年子に近い2人の乳幼児を抱え、子どものアレルギーへの細心の注意や突発的な体調不良にも、たった一人で対処する日々が続きました。

 

大人とまともに会話をする機会はケンゴさんのみ。しかしそのケンゴさんも、仕事に疲れて平日はすれ違うことが多い日々が続きます。ナオさんが睡眠不足と疲労で心身の限界を迎えていたある日の深夜。子どもたちをようやく寝かしつけ、深夜0時過ぎに帰宅したケンゴさんのために温かい夕食を並べ終えたときのことです。

 

「今日、こんなことがあってね……」

 

夫の向かいに座ったナオさんに対し、日々の激務に追い詰められていたケンゴさんは、ため息とともにぼそりと呟きました。

 

「……はあ、しんどいな。俺だって、たまには遊びたいよ」

 

その瞬間、ナオさんの心の中で張り詰めていた糸が音を立てて切れました。

 

「私が遊んでるとでも思ってんの!?」

 

怒声とともに食卓の皿を床に叩きつけたナオさんは、割れた陶器の破片を背に、財布も持たずに家を飛び出しました。夜の住宅街を無我夢中で走るナオさんの背後から、血相を変えて裸足同然で追いかけてきたケンゴさん。道端で息を切らしながら「本当にごめん、俺が完全に間違っていた」と平謝りする夫の姿を見て、ナオさんは怒りを収め、その場は許すことにしました。

 

「夫もギリギリの精神状態で働いていたのはわかります。でも、自分のキャリアを捨て、見知らぬ土地で24時間子どもと格闘している生活を『遊んでいる』ように捉えられたことだけは、どうしても耐えられなかったんです」