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「私にとっては瞑想」同僚女性と意気投合
その日、ショウコさんと同じ作業に入っていた40代の女性も、副業として同じアルバイトをしていました。普段は企業のお客様センターで働いているそうです。休憩時間、女性がアルバイトで働く理由を話してくれました。
「普段はクレーム対応も多いし、お客様だけじゃなくて職場の人間関係にも気を遣うんです。だから休日は、なるべく人と話さずに黙々と作業できる仕事がしたくて」
ショウコさんは思わず「わかります!」と声を上げました。
「私も人間関係に疲れて会社を辞めたところだったので、すごく共感したんです。『そうなんですよね! ひたすら作業していると、余計なことを考えずに済むんですよね』って、盛り上がってしまいました」
すると女性は、こんなことも話してくれたそうです。
「体は疲れるけど、頭はすっきりするんです。私にとっては瞑想みたいなものです」
その言葉が、ショウコさんには特に印象的だったといいます。
「瞑想という表現がぴったりだと思いました。頭の中を占めていたいろいろなことが、作業している間は消えていく。人と関わることに疲れた人が、こういう仕事を選ぶこともあるんだなと思いました」
現場には、普段は会社員をしている人や、空いた日に働く人など、さまざまな人がいました。休憩時間に少し話すことはあっても、お互いの経歴を詳しく聞くことはありません。
「以前は名刺を交換して、肩書きを確認するのが当たり前でした。でも、ここではそんなことは関係ない。昨日何をしていたかも、明日どこで働くかも知らない。そういう関係が楽だったんです」
ショウコさんはその後も、月に数回、単発の仕事に応募するようになりました。
年収650万円から550万円に。それでも続けたい仕事
一方、アルバイトの仕事だけで生活する難しさも感じていました。求人はいつでもあるとは限らず、希望する日に仕事が見つからないこともあります。肉体的な負担も大きく、この仕事を週5日続けるのは難しいと感じました。
「私の場合は、嫌なら次は応募しないという選択ができます。でも、毎月の生活費を稼ぐために来ている人もいますよね。同じ時給でも、その人にとっての重みは違うと思います」
ショウコさんはその後、以前の経験を生かして別の企業に再就職しました。現在は週5日勤務の広報担当として働いていますが、管理職ではなく、実務を中心としたポジションです。年収は約550万円と、以前より100万円下がりました。
「夫も働いていますし、子どももいないので、気楽でいいねと言われることもあります。でも、人生100年時代、これから何が起こるかわかりません。老後資金のことも気になりますし、働かなくてもいいほど余裕があるわけではないんです」
それでも、以前のような働き方に戻るつもりはないといいます。
「収入は減りましたけど、今のほうが気持ちに余裕があります。これからも長く働くことを考えたら、年収だけにこだわるより、自分が無理なく続けられる働き方を選びたいと思ったんです」
再就職した現在も、月に2~3回、土曜日にアルバイトを続けています。勤務先は副業を認めており、月の副収入は2万~3万円ほど。夫も応援してくれているそうです。
「平日は広報、土曜日は単純作業。まったく違う仕事なので、気分が切り替わるんです。ただ、疲れているときは行きません。好きで始めたことまで義務にしたくないので」
「選べる副業」と「働かざるを得ない副業」の違い
独立行政法人労働政策研究・研修機構の「副業者の就労に関する調査」では、副業をする理由として「1つの仕事だけでは収入が少なくて、生活自体ができないから」を挙げた人が38.2%にのぼりました。非正社員に限ると43.9%です。なお、この調査は2022年10月に実施されたものです。
副業が収入を増やす手段である一方、本業だけでは十分な生活費を得られないという問題も浮かび上がります。
また、厚生労働省は2025年7月、短時間・単発で働く「スポットワーク」について、労働者と事業主に向けた注意事項を公表しました。労働契約の成立時期や、事業主都合で仕事が休みになった場合の休業手当、賃金の支払いなどについて説明しています。
単発の仕事は、自分の都合に合わせて働ける反面、次の仕事が必ず見つかる保証はありません。収入が不安定になりやすく、働きたい日に働けなければ、その分の収入も得られません。
ショウコさんが心地よいと感じた「その日限りで仕事が終わる」という特徴も、別の立場から見れば、翌日の仕事や収入が保証されないということです。必要なときだけ人を雇える仕組みは、企業にとって人員を調整しやすい一方、仕事がないときの収入リスクを働く側が引き受ける面もあります。
さらに、ショウコさんが朝礼で「一つの作業に集中する」と聞いて涙が出そうになったのは、それまでの職場で、いかに多くのことを同時に求められていたかの裏返しでもあります。
働く人が負担を減らすために、年収を下げたり、長年の職場を離れたりするしかないとすれば、それもまた考えるべき問題でしょう。もちろん、ショウコさんの選択は、数ある働き方の一つにすぎません。収入や家庭の事情によっては、年収を下げて転職することも、単発アルバイトを気分転換として楽しむことも難しいでしょう。
大切なのは、特定の働き方を理想とすることではなく、誰もが生活の安定を確保しながら、自分に合った働き方を選べることではないでしょうか。