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年収650万円の広報担当、55歳で退職
「仕事そのものが嫌いになったわけじゃないんです。もう、人間関係に疲れてしまって」
そう話すのは、東京都内に暮らすショウコさん(55歳・仮名)です。大学卒業後、複数の企業で広報の仕事に携わり、40代からは中堅メーカーの広報部門で働いていました。退職時の年収は約650万円。夫も会社員で、子どもはおらず、夫婦2人と猫1匹で暮らしています。
広報の仕事にはやりがいを感じていました。しかし、管理職になってからは、社内外の調整業務が増えていったといいます。
「経営陣の意向を確認して、他部署と調整して、制作会社に依頼して。ようやく決まったと思ったら、上からの一言で全部やり直し。誰かの機嫌を損ねないように、ずっと気を遣っていました」
複数の案件を同時に進めるのは当たり前。会議中にもメールやチャットで確認を求められ、急なトラブルが起きれば予定していた仕事は後回し。休日もスマートフォンを手放せない日々が続きました。
55歳を迎えたころ、思い切って転職を決意しました。
「夫には『少し休んでから、また働けばいいじゃない』と言われました。とはいえ老後の資金も心配ですし、私自身もしばらく休んでから再就職するつもりでした」
退職後は旅行に出かけたり、平日の昼間に映画を見たりして過ごしました。しかし、3ヵ月ほど経つと、そろそろ仕事をしたいと思うようになります。
「働くこと自体は好きなんですよ。ただ、もう以前のような仕事には戻りたくない。かといって、何がしたいのかもわからなくて。年齢のこともありますし不安でした」
そんなとき、目に留まったのが、求人サイトでのアルバイトでした。
「マルチタスクはしない」朝礼の言葉に涙が出そうに
募集されていたのは、単純な作業。1日単位で応募でき、時給は1,300円。7時間勤務すれば9,100円になります。
「一度くらい、まったく違う仕事をしてみてもいいかなと思って。嫌だったら次は応募しなければいいですし」
初めて出勤した日、朝礼で読み上げられた注意事項に、ショウコさんは思わず耳を疑いました。
「一つの作業に集中すること。マルチタスクはしないこと」
「それを聞いたとき、涙が出そうになったんです。前の職場では、何年もマルチタスクを求められてきました。会議中にもメールが来て、電話が鳴って、別の案件の判断を求められる。それが当たり前だったので、『一つのことだけやっていればいいんだ』と思ったら、なんだかホッとしてしまって」
しかし実際の仕事は、作業は単純でも、立ちっぱなしで体を動かすため、帰宅するころには足がパンパンになっていました。
「帰ってからソファで寝てしまいました。デスクワークとは疲れ方が全然違うんですね。前の会社の商品もこうして発送されていたんだなと思いました」
それでも、不思議と気分はすっきりしていたといいます。もう一つ新鮮だったのが、その日限りで仕事が終わることでした。
「広報では何週間も何ヵ月も案件が続くので、家に帰ってからも『あの件、どうなったかな』『明日はあの人に連絡しなきゃ』と考えていました。でも、今はその日の作業が終われば、それでおしまい。仕事を持ち帰らなくていいんです」
目の前の作業に集中し、終われば帰る。以前の仕事では味わえなかった解放感がありました。