※写真はイメージです/PIXTA
「そんなの知らないよ!」姉にぶつけてしまった本音
大学進学を機に、甥は岐阜から東京へ出て一人暮らしをすることになりました。すると姉から、「どの沿線が便利?」「どこに住めばいい?」「家賃はいくらくらい?」と相談が相次ぐようになります。
東京に長く暮らす妹の自分を頼っているだけ。そうわかっていても、マユミさんは次第にイライラするようになりました。そしてある日、また住まいについて尋ねられ、つい言ってしまいます。
「そんなの知らないよ! 自分で調べればいいじゃん」
姉は驚き、「どうしたの? 何かあった?」と聞いてきました。
そこでマユミさんは、これまで抱えていた思いを吐き出しました。
「お姉ちゃん、ズルいって思ってた」
自分は娘の教育費を払うために必死で働いてきた。姉は公立中心で、義実家の援助もある。それなのに子どもたちは同じ大学。さらに、昔から姉にコンプレックスがあったことまで口にしました。
「お姉ちゃんは昔から頭がよくて、私よりずっと偏差値の高い公立高校に行って、大学も国立。私は要領も悪かったし、勉強もできなかった。なんか悔しくなっちゃった」
「あんたは一生懸命だったじゃない」
姉はしばらく黙ったあと、こう返したそうです。
「あんたは確かに要領が悪かったかもしれない。でも、一生懸命だったじゃない」
地元を離れて東京で働き続け、自分の家庭を築いたことも「すごいことだと思っている」と言われました。
さらに姉は、意外な話をしました。甥はマユミさんの娘から、「一人暮らしならこの辺が便利だよ」「この路線なら大学に行きやすいよ」などと、東京での生活についていろいろ教えてもらっていたのです。
「優しい子に育ったよね。私は、あんたの教育の賜物だと思ったよ」
マユミさんは、その言葉に涙が出たといいます。
「私は教育費ばかり比べていた。でも姉は、娘がどういう人に育ったかを見てくれていたんですよね」
教育費は「同じ大学だったから同じ」ではない
公立か私立かによる負担の違いは、確かに小さくありません。しかし、教育にかかったお金を、最終的な進学先だけで「得だった」「損だった」と判断することも難しいでしょう。マユミさんの娘が私立中高で過ごした6年間には、授業だけでなく、友人関係や部活動、学校行事などさまざまな経験があります。一方、姉一家にもこれから別の負担があります。
日本学生支援機構「令和4年度学生生活調査」によると、大学学部昼間部の学生生活費は、自宅通学が年間平均約164万円なのに対し、下宿やアパートなどでは約212万円。自宅外通学では年間約48万円高くなっています。
岐阜から上京する甥にも、住居費や生活費が必要になります。どの家庭がお金をかけずに「得をした」のかは、簡単には比べられません。
「姉がズルかったわけじゃないんですよね。私がずっと頑張ってきて、疲れていたんだと思います」
姉妹はその後、以前のように話せるようになりました。マユミさんも甥の部屋探しについて、娘と一緒に相談に乗っているそうです。
子どもにかけた教育費の価値は、最後に並んだ大学名だけでは測れません。どんな環境で何を経験し、どんな人に育ったのか――。姉の言葉は、長年必死に働いてきたマユミさんに、自分が娘に残してきたものを別の角度から見せてくれたのでした。