離婚を決めたとき、財産をどう分けるかは避けて通れない問題です。とくに定年が近い夫婦では、住まいと老後資金をどう確保するかが、その後の生活を大きく左右します。ある離婚事例を通じて、財産分与の現実を考えます。
「もう限界です…」〈年収780万円・61歳会社員〉妻に自宅と現金1,200万円を渡して離婚。3年後、元妻からかかってきた電話の中身 ※写真はイメージです/PIXTA

「これでお互い、やり直せる」離婚時に決めた財産分与

「離婚するときは、妻がこの先困らないように、できるだけのことをしたつもりでした」

 

そう話すのは、東京都内に住む小林哲也さん(仮名・61歳)です。大手メーカーに勤務し、年収は約780万円。結婚33年になる妻の明美さん(仮名・58歳)とは、3年前に離婚しました。

 

子どもは2人。すでに独立しています。

 

夫婦の関係が悪化したのは、10年ほど前からでした。特にきっかけがあったわけではありません。会話は必要最低限になり、休日も別々に過ごすことが増えました。子どもたちが独立してからは、同じ家に暮らしていても、互いに干渉しない生活が続いていたといいます。

 

「子どもが独立したあとも、この生活を何年も続けるのかと思うと、もう無理だと感じました」

 

哲也さんから離婚を切り出すと、明美さんは当初、反対しました。

 

「いまさら離婚する意味って、ある?」

 

しかし、話し合いを重ねるうちに、離婚そのものには同意。最後まで意見が分かれたのは、財産の分け方でした。

 

夫婦の資産は、時価3,600万円の自宅と預貯金2,400万円。住宅ローンは完済しています。明美さんは長年専業主婦だったため、離婚後の収入には不安がありました。

 

そこで哲也さんは、自宅を明美さんに譲り、預貯金を半分ずつ分けることを提案します。明美さんは自宅と現金1,200万円を取得。哲也さんは現金1,200万円を受け取り、賃貸住宅へ移ることになりました。

 

「妻には住む場所がありますし、まとまったお金も残せました。自分もまだ働いていましたから、これなら双方が新しい生活を始められると思ったんです」

 

財産分与では、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を、名義だけで判断せずに分けることが基本となります。厚生労働省の人口動態統計によると、2025年の離婚件数は17万9,068組。同居期間30年以上の離婚は7,336組でした。長い結婚生活を経て離婚する場合、財産分与だけでなく、その後の暮らしをどう維持するかも重要な課題になります。

 

哲也さんは離婚後、会社に近い家賃月9万円の1LDKで暮らし始めました。生活にも大きな変化はありません。休日に趣味を楽しむ余裕もできました。

 

明美さんから連絡が来ることはありませんが、独立した子どもたちからはたまに電話があります。哲也さんは、これで互いに新しい人生を歩めると考えていました。

 

ところが、離婚から3年がたったある日、元妻から電話がかかってきたのです。