長年連れ添った夫婦でも、老後を目前にした時期に関係が大きく変わることがあります。仕事、家計、親族との付き合いなど、長く積み重なった問題が表面化するケースも。夫から突然、離婚を切り出された女性の事例から、熟年期の夫婦関係を考えます。
限界でした。〈年金月18万円・65歳夫〉63歳妻に三行半…定年後、夫が「夫婦の老後」を拒んだ理由 ※写真はイメージです/PIXTA

別れのきっかけは、夫の「一人で旅行にいきたい」

決定的な出来事があったのは、退職から4カ月ほど経ったころでした。浩一さんは、以前から考えていた一人旅に出ようと、由美子さんに相談しました。

 

「1週間くらい、一人で旅行に行きたい」

 

すると由美子さんは、「退職したばかりなのに、そんなに長く家を空けるの?」と答えました。

 

浩一さんは、その場では何も言いませんでした。しかし、その夜から「この先、どうやって生きていきたいのか」を考えるようになったそうです。

 

現役時代は、家族を養うことが自分の役割だと思っていました。

 

だから働きました。住宅を買い、子どもを育て、家計を支えました。それは浩一さん自身が選んだ人生です。ところが、仕事を辞めた途端、「夫としてどうするか」「家にいるなら何をするか」を妻から決められているように感じるようになったのです。

 

「これから妻が何もかも決めていく、私は妻の考えに合わせて暮らしていく――そんな将来を想像したら、一人になりたいと思うようになりました」

 

浩一さんは、離婚を前提に一人暮らしの部屋を探し始めました。由美子さんには相談しませんでした。そしてある日、浩一さんは「一人で暮らしたい」と伝えました。由美子さんは、夫が一時的に距離を置きたいだけだと思ったといいます。

 

ところが、浩一さんの意思は違いました。

 

「俺は、これから一人で生きたい」

 

さらに、離婚を申し出ました。由美子さんは驚きました。

 

「まさか、夫のほうから離婚を言われるとは思っていませんでした」

 

浩一さんは現在、月6万円台の賃貸住宅で一人暮らしをしています。家事も食事も自分でしなければなりません。家賃も光熱費も一人で負担します。経済的に見れば、夫婦2人で暮らすより効率がいいわけではありません。それでも、浩一さんは「今のほうが気持ちは楽」と話します。

 

一方で離婚については、いったん棚上げ状態にあるといいます。そのことについて由美子さんは、

 

「私も夫がいないほうが楽です。気を使わなくていいですから。ただ今は元気に動けるからだと思っているんです。いずれ離婚を後悔するかもしれない――だから結論を急ぐ必要はないと思っています」

 

と話しています。

 

内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、65歳以上で生きがいを感じる時として「夫婦団らんの時」を挙げた人は28.9%。長年連れ添った夫婦であっても、定年後の生き方、暮らし方、その価値観が一致しているとは限らないでしょう。お互いの自由や意思を尊重し合える関係性をいかに築くかが、老後、穏やかに暮らしていくためのポイントといえそうです。