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定年退職後、妻への不満が徐々に増大
東京都内に住む佐藤浩一さん(65歳・仮名)は、35年間勤めた会社を定年退職しました。妻の由美子さん(63歳・仮名)との間には2人の子どもがいます。すでに独立しており、現在は夫婦2人で持ち家に暮らしています。
現役時代、浩一さんの最高年収は1,000万円の大台を突破。家計を支え、住宅ローンを払い、子どもの大学進学費用も負担してきました。
「自分が家族を支えているという意識はありました。仕事も大変でしたが、それが嫌だと思ったことはありません」
由美子さんも、夫が家族のために働いていることは理解していました。浩一さん自身、「自分で働き、自分で稼ぎ、自分で家族を支えてきた」と考えていたそうです。
ところが、退職して生活が変わりました。最初に違和感を覚えたのは、朝の過ごし方でした。現役時代は毎朝決まった時間に家を出ていました。退職後は、当然ながら予定がありません。すると由美子さんから、「今日は何するの?」と聞かれるようになったといいます。
「最初は普通の会話だと思っていました。でも、昼まで家にいると『暇なら掃除しておいて』と言われる。出かけようとすると『どこに行くの?』と聞かれる。少しずつ、自分の時間がなくなったように感じました」
由美子さんに悪気はありませんでした。これまで仕事で家を空けていた夫が家にいるのだから、家のことは分担しよう――当然の考えです。
一方、浩一さんは、別の受け止め方をしていました。
「会社にいたときは、自分で予定を決めていました。仕事を辞めたら、それが全部なくなった。家にいると、今度は妻の予定に合わせることになる。それが苦しくなっていきました」
さらに、由美子さんは浩一さんに再就職を勧めました。
「年金だけじゃ余裕がないから、少し働いたら?」
浩一さんの年金は月18万円ほど。生活できない金額ではありませんが、住宅の維持費などを考えると、余裕があるわけでもありません。ただ、浩一さんは働くこと自体を拒んでいたわけではありませんでした。
「妻に『働いたほうがいい』と言われて……誰かに決められるのがすごく嫌だったんです」
厚生労働省『人口動態統計』によると、2025年の離婚件数は17万9,073組。そのうち同居期間20年以上の夫婦による離婚、いわゆる熟年離婚は全体の24.2%を占めます。
定年やリタイアは、夫婦の生活が大きく変わる時期です。現役時代は仕事を通じてそれぞれの時間を持っていた夫婦も、退職後は一緒に過ごす時間が増えます。そこで初めて、これまで見過ごしていた価値観の違いが表面化することがあります。
浩一さんの場合、それは「家事をするか、働くか」という話だけではありませんでした。
「自分のことを、自分で決められなくなったような感覚がありました」
そう話します。