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50歳男性「実家は残すつもりだった」
「母がいる限り、この家は残すつもりでした。私もいずれは故郷に戻りたいと思っていましたし」
そう話すのは、東京都内の会社に勤める田中誠さん(50歳・仮名)です。月収は55万円ほど。妻と子ども2人の4人家族です。
地方の実家で一人暮らしをする母・洋子さん(78歳・仮名)は、夫が亡くなって以来、一人暮らし。離れて暮らしているので不安ではあるものの、実家を離れる気はなく、誠さん自身も、母がずっと住んでくれることを望んでいました。
実家は築年数こそ経っていますが、洋子さんが一人で暮らすには十分。近所には商店があり、車で少し走れば病院もある。誠さんが帰省するのは年に1~2回程度でしたが、日常生活について大きな心配はありませんでした。
ところが、状況は急転。長年、地域の住民が利用してきた病院が、閉院することになったのです。
突然の知らせでした。
「最初に聞いたときは、まさかと思いました」
その病院は、洋子さんにとって単に近い医療機関というだけではありませんでした。定期的な診察を受ける場所であり、体調が悪くなったときに相談できる場所でもありました。ところが、閉院後に代わりとなる医療機関を探すと、話は簡単ではありませんでした。
これから先、最寄りとなる病院までは、これまでより大幅に時間がかかります。山を越えて1時間程度。公共交通機関はないに等しく、車を使えば通えますが、高齢の母親が今後も自分で運転し続けることには不安があります。
病院がなくなったことで、それまで当たり前だった暮らしの前提が崩れてしまったのです。
「母が元気なうちはまだいい。でもこれ以上年を重ねた先、(医師のいないような)このような場所では暮らしていけないし、母をここには置いていけないと思いました。これから何かあったとき、ここから病院に行くのは、容易ではありませんから」
自分が育った家。母親もできれば住み続けたい――売却して別の場所へ移るという選択は、2人にとって簡単なものではありませんでした。
病院に通う必要が出てきたとき、どうするのか。
救急搬送が必要になったときはどうなるのか。
車を運転できなくなった後も、生活を続けられるのか。
「いずれ、故郷に戻りたいと思っていたので、『こんなはずじゃなかった』という思いですね。まさか医者がいなくなって、暮らしていくのが難しくなるなんて思ってもみませんでした」