(※写真はイメージです/PIXTA)
母の死、息子が放ったひと言
2階の自室で暖房をつけて引きこもっていたヨシトモさん。母が部屋の前に食事を置かなくなっても、「また顔を合わせたら小言をいわれるのが嫌だ」と放っておき、キッチンにあったお菓子やジュース、カップ麺を口にして過ごしていました。
異変が発覚したのは、母が倒れてから8日が過ぎてからです。4日ぶりにお風呂に入ろうと重い腰を上げ、2階の部屋を出て階段を降り、1階へ向かったヨシトモさん。
いつもなら点いているはずの明かりもなく、暗いリビングのドアを開けても母の姿はありません。胸騒ぎがしたヨシトモさんは、次に母の寝室を覗きます。すると、そこには床に倒れたまま動かなくなっているチヨさんの姿が。4日前に風呂に入ったときには気がつきませんでした。動転したヨシトモさんが慌てて119番通報し、搬送先の病院でチヨさんの死亡が確認されました。
母が亡くなったことに涙を流すわけでもなく、動揺した様子で放ったのは、耳を疑うような一言でした。
「母さんが死んだら、来月からの年金はどうなるんですか? 僕の生活費は誰が出してくれるんですか……?」
実質的な「同居孤独死」という最悪の形で親の庇護を失ったヨシトモさん。周囲の冷ややかな視線と、残されたのは食費や税金も払えない過酷な現実だけでした。
同居世帯に潜む「孤立」と家族の形
「家族と一緒に暮らしていれば孤立しない」と考えられがちですが、実際には家庭内での会話や交流が絶たれ、社会から分断されているケースは少なくありません。
内閣府が公表した『人々のつながりに関する基礎調査(令和7年)』によると、二世帯で暮らす人のうち、「孤独感がしばしばある・常にある」と直接質問に答えた人は2.6%でした。一方、「孤独」という言葉を使わず、「取り残されていると感じる」などの複数の質問から孤独感を測定する間接質問では、孤独感が最も強い層(10〜12点)となった人は4.8%に達しています。一人世帯の同指標(直接質問9.8%、間接質問11.3%)と比較すると、世帯人数が多いほうが孤独感の強い人の割合は低い傾向にあります。しかし、このデータは「同居家族がいれば絶対に孤独を感じないわけではない」という現実を浮き彫りにしています。
同調査において、現在の孤独感に影響を与えた出来事を尋ねた項目(孤独感が「しばしばある・常にある」「時々ある」「たまにある」と答えた人対象)では、「一人暮らし」が19.4%と最も多く、次いで「家族との死別」が15.3%を占めています。一方、孤独感が「決してない」「ほとんどない」と答えた人で「家族との死別」を挙げた割合は5.5%にとどまっています。
配偶者や親など、生活や心の支えであった家族との死別は、人の精神的な安定を大きく揺るがす契機となります。本事例のように、夫の他界によって家庭内のバランスが崩れ、家族間のコミュニケーションが遮断されてしまうと、同じ家の中にいながら互いに深い孤立状態へ陥る危険性があります。
高齢親の年金だけに頼る生活は、親の死亡という避けては通れない事態によって破綻します。80代の親に50代の引きこもりの子が頼る「8050問題」の末路はさまざまな形があれど、残酷なものです。引きこもりや高齢親の介護・生活困窮といった複合的な問題を抱える家庭においては、家族だけで問題を抱え込まず、早い段階で自治体の福祉窓口や地域包括支援センター、地域生活困窮者自立支援機関などの公的相談窓口へ繋がることが、凄惨な同居孤独死を防ぐための手段となります。
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