(※写真はイメージです/PIXTA)
同じ屋根の下で起きた「同居孤独死」
「一緒に暮らしていたのに、お母さんが亡くなっていることにも気づかないなんて……」
郊外の住宅街にある一軒家。近所の人々が声をひそめて噂し合っていました。長年隣に住む女性がポツリと漏らした言葉が、この家庭の現実を物語っていました。
「ずっとお母さんの年金で暮らしていたのにねぇ……」
この一軒家で暮らしていたのは、チヨさん(享年82)と、その息子・ヨシトモさん(53歳)です。
15年前に夫をがんで亡くして以来、チヨさんは自身の老齢年金と夫の遺族年金を合わせた月額約18万円の収入で生活をやりくりしていました。一見すると落ち着いた老後生活のようですが、チヨさんの胸中には常に深い苦悩が影を落としていたようです。
息子のヨシトモさんは、かつては地元の企業で真面目に働く会社員でした。しかし40代前半のころ、職場の人間関係トラブルや苛烈なノルマに耐えかねて退職。家賃が払えず実家に戻ることに。再就職を目指して求職活動を行ったものの不採用が続き、それ以来は無職です。次第に自信を失って2階の自室に閉じこもるようになりました。
父が他界したことで、ヨシトモさんの引きこもり傾向は一気に加速しました。日中は自分の部屋でテレビやインターネットを見て過ごす毎日。食費や光熱費はもちろん、日用品やスマホ代に至るまで、すべてチヨさんの年金口座から支払われていました。
生活リズムはすっかり乱れ、お風呂に入るのも4日に1回程度。身だしなみや自身の体臭にも無頓着になり、洗面所へ行くことすら億劫がる不摂生な暮らしが定着していったのです。
チヨさんは「このままではあの子の将来が心配だ」と何度も就職や自立を促そうとしましたが、ヨシトモさんは「俺の苦しさもわからせたくせに」「いまは景気が悪いんだ」と壁を叩いて逆上。やがてチヨさんも息子を刺激することを恐れるようになり、食事の盆を部屋の前に置くだけの、最低限のコミュニケーションしか取らなくなっていきました。
同じ屋根の下に暮らしながら、会話は年に数回。互いの気配だけを感じながら過ごす同居生活が10年以上続いていたのです。
事件が起きたのは、冬の日でした。チヨさんが1階の寝室で倒れ、そのまま息を引き取ったのです。