(※写真はイメージです/PIXTA)
娘の成人式に「振袖を貸して」
カオルさんの娘の成人式が近づいたころ、アサミさんが成人式で着た振袖を貸してほしいと頼まれました。その振袖は、アサミさんが20歳になったとき、母親が買ってくれたものです。母娘で呉服店へ行き、何枚も試着しながら選んだ思い出の一着で、現在も実家で大切に保管されています。さらに、ノノカさんも自分の成人式でその振袖を着る予定でした。アサミさんの母親も、孫が着てくれることを楽しみにしていたそうです。
そのことは、夫がうっかり義姉に話してしまったことで、カオルさんも知っていました。それでも、ノノカさんが着るのはまだ先なのだから、一度くらい借りても問題ないと考えたようです。振袖をレンタルすれば費用もかかるため、家にあるものを借りれば済む、という感覚だったのでしょう。しかし、アサミさんにはスーツケースの一件がありました。そこで今回は、はっきり断ることにしました。
「前にスーツケースを貸したときも、汚れて戻ってきましたよね。あのときは“味になる”って言われましたけど、この振袖は娘も着る予定なんです」
さらに、もし汚れた場合にはクリーニング代も安くないことを伝え、「お姉さん、クリーニング代を負担する気はありますか?」と尋ねました。
カオルさんは、そこまで言われるとは思っていなかったのか、黙ってしまいました。アサミさんにとって問題だったのは、単に振袖を貸したくないということではありません。借りた物は、使えば汚れることも、傷むこともあります。そして今回の振袖は、母親から贈られ、これから娘も着る大切な一着です。「一回くらい」と簡単に考えられるものではありませんでした。
義母と夫から謝罪
その後、このやりとりを知ったショウヘイさんと義母から、アサミさんに謝罪がありました。ショウヘイさんは、以前スーツケースの件があったにもかかわらず、姉に強く注意しなかったことについて謝ったそうです。
義母も、カオルさんには昔から「あるものは借りればいい」と考えるところがあり、アサミさんに嫌な思いをさせたと話しました。「私の教育が完全に間違ったせいね。ごめんなさい」と反省を口にしたと言います。アサミさん自身は、夫や義母に謝ってほしかったわけではありません。ただ、自分が細かすぎるわけではなく、「貸す側にも負担がある」という感覚を理解してもらえたことで、少し気持ちが軽くなったといいます。
結局、カオルさんの娘は成人式用の振袖を別にレンタルすることになりました。
「借りればタダ」ではない
環境省の調査では、2024年のリユース市場規模は3兆4,986億円に達し、2012年の3兆1,047億円から拡大しています。中古品を購入したり、必要なものだけを利用したりする消費スタイルは、今後も身近なものになっていくでしょう。物を所有せず、必要なときだけ使うこと自体は合理的な選択です。ただし、レンタルサービスと、家族や友人の私物を無償で借りることには大きな違いがあります。
レンタルサービスでは、利用者が料金を支払います。その料金には、商品そのものの購入費用だけでなく、保管やメンテナンス、汚損や故障などへの対応にかかるコストも含まれています。一方、知人の持ち物を無償で借りた場合、借りる側の出費がゼロだからといって、その物にかかるコストまでゼロになるわけではありません。
誰かが代金を支払って購入し、保管し、手入れをしています。使えば傷や汚れがつく可能性があり、紛失や破損のリスクもあります。さらに、今回の振袖のように、持ち主にとっては金額以上の思い入れがあるものもあります。
「買わずに済んだ」「タダで借りられた」というメリットだけを見れば、その裏側で誰がコストやリスクを引き受けているのかが見えにくくなります。節約することと、他人の所有物を無料で利用することは同じではありません。貸してくれる相手の負担や気持ちへの想像力を失えば、節約できた金額以上に大きなもの――人との信頼を失ってしまうこともあるのです。
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