(※写真はイメージです/PIXTA)
退職日に突きつけられた「離婚届」
「ここまで働いてこられたのも妻のおかげだな」
元国家公務員のイサオさん(65歳)は、職場で贈られた大きな花束を抱え、足取りも軽くデパ地下へと向かいました。長年家庭を守ってくれた妻のマチ子さん(65歳)に感謝の気持ちを伝えるため、いつも家で飲んでいるテーブルワインより少し奮発して高価なワインを買い求めたのです。
真面目に勤め上げ、公的年金の受給額は月22万円ほどが見込める安定した老後。妻の年金をあわせれば十分なゆとりが生まれます。自分の務めをしっかり果たしたという達成感と誇りを胸に、イサオさんは晴れやかな笑顔で自宅のドアを開けました。
しかし、イサオさんを待っていたのは、冷ややかな表情のマチ子さんと一枚の紙でした。
「今日までお疲れ様でした。私、今日であなたの妻を辞めさせていただきます」
差し出されたのは離婚届。驚愕したイサオさんは「おいおい、退職日の冗談にしては悪趣味だぞ。一緒に飲もうと思って、高いワインまで買ってきたんだから」と笑い飛ばそうとしました。しかし、マチ子さんの視線は冷ややかなまま。
「こんなワインぽっちで、いままでのことが帳消しになるとでも思っているの?」
鼻で笑うように吐き捨てられた言葉に、気持ちを踏みにじられ、イサオさんからも笑顔が消えました。
「俺がどれだけ必死に働いて家族を養ってきたと思っているんだ」
声を荒らげるイサオさんに対し、マチ子さんも長年溜め込んできた鬱憤を爆発させました。
「忙しいからって、家庭のことはなに一つ手伝わず、家事も育児も全部私に押し付けてきたのは誰? 休日だって寝てばかり。何十年も我慢してきた私の気持ちなんて、あなたには一回だって想像したこともないでしょう!」
妻の怒りに触れ、イサオさんは言葉を失いました。自分の中では「家族のために一生懸命働き、思いやりのある夫」であったはずが、妻にとっては「家庭を顧みず、自分勝手に生きてきた夫」に過ぎなかったのです。
(こんな女だったのか……。俺がどれだけ頑張ってきたかを1ミリも理解していなかったのか。こんな女だとわかっていたら、結婚しなかったよ)
結局、話し合いは完全に決裂。40年以上連れ添った夫婦の終わりは、修復不可能な恨みと深い後悔だけを残し、別居と離婚手続きへと向かっていくことになりました。イサオさんは「マチ子との結婚には、後悔しかありません」と吐露します。