定年後は夫婦でゆっくり暮らす。そんなイメージがある一方、長年の結婚生活を経て、あえて生活拠点を分けるケースも。ある夫婦の事例から、老後の夫婦の在り方を考えます。
「夫婦でも、別々に暮らします」〈年金月28万円・68歳夫婦〉、定年後に選んだ「別居でも離婚しない」という決断 ※写真はイメージです/PIXTA

「一緒に住まないほうが、うまくいく」68歳夫婦が出した答え

「夫婦でも、別々に暮らします」

 

東京在住の68歳の高橋誠さん(仮名)。妻の恵子さん(仮名)も同じ68歳で、2人の年金受取額は合わせて月28万円ほど。結婚生活は40年を超え、子どもは独立し、現在は夫婦2人の生活です。

 

現役時代は、仕事の都合もあって同じ家で暮らしてきました。しかし、誠さんが定年を迎えてから、夫婦の生活時間は大きく変わりました。

 

誠さんは地方にある実家を整理したことをきっかけに、その地域で暮らす友人との付き合いが増えました。家庭菜園を始め、近所の人から野菜づくりを教わるようにもなりました。

 

一方、恵子さんは東京での生活を気に入っていました。以前から通っていた習い事があり、学生時代からの友人とも会いやすい場所です。

 

「夫について地方へ行くことも考えました。でも、私には私の生活があります」

 

恵子さんはそう話します。2人の間で、生活拠点をどうするかという話が出るようになりました。最初は、どちらかが相手に合わせる案もありました。しかし、話し合うほど「どちらかが我慢する必要はないのではないか」という考えが強くなったといいます。

 

そこで2人が選んだのが、それぞれの家を持ち、必要なときに一緒に過ごす生活でした。いわゆる「週末婚」に近い形です。ただし、2人はこの暮らしを特別なものとは考えていません。

 

「離婚したいわけではありません。別々に暮らしたほうが、お互いに機嫌よく過ごせると思っただけです」

 

誠さんはそう話します。実際、生活を分けてみると、以前より会話が増えたといいます。電話でその日の出来事を話し、月に数回はどちらかの家で一緒に過ごします。旅行に出かけることもあります。

 

毎日顔を合わせなくなったことで、相手の行動を細かく気にすることも減りました。一方で、別々に暮らす以上、考えておかなければならないこともあります。

 

まず、お金です。総務省『家計調査 家計収支編(2025年平均)』によると、65歳以上の夫婦一組の無職世帯における月平均の消費支出は26万3,979円(実収入25万4,395円)。一方、65歳以上の単身世帯における月平均の消費支出は15万5,782円です。仮に夫婦が別々に暮らし、単身世帯2世帯分として生活費を負担した場合、毎月の消費支出は合計で約31万1,564円となり、同居している場合と比べて毎月約4.8万円(年間で約57万円)支出が増加する計算になります。

 

特に住居費や光熱・水道費(単身世帯では月平均1万5,527円)などの固定費がそれぞれ二重にかかるため、同居より支出が増える可能性は高くなります。夫婦で生活拠点を分ける場合、家賃や住宅の維持費、交通費などをどう負担するかは避けて通れません。

 

高橋さん夫婦も、そこは慎重に計算しました。2人とも持ち家があるわけではありません。誠さんは地方の中古住宅、恵子さんは都市部のマンションを借りています。

 

「2人で同じ家に住むより、住宅費はかかります。生活費も別々なので、2倍とはいきませんが、一緒に暮らすよりもかかりますよね」