厚生労働省が2026年2月に公表した「毎月勤労統計調査」の2025年分速報によると、一般労働者の所定外労働時間は月平均13.2時間でした。また、リクルートの調査では、職場の飲み会に「気を使い、くつろげない」と答えた人が36.3%にのぼります。成果を出した部下への「ご褒美」として食事を奢ってきた56歳の男性部長でしたが、陰で「ありがた迷惑」と言われていることを知ります。さらに、IT企業で働く25歳の娘からも、「自分との食事がご褒美になると思っている時点でイタい」と痛烈な指摘が。善意のねぎらいは、なぜ部下の負担になってしまったのでしょうか。
喜んでいると思っていました…〈年収1,100万円〉56歳部長、成果を出した部下に食事を奢るも陰では不評。25歳娘の一言「それ、ご褒美になってないよ」にショックを受けたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

部下にとっては「ご褒美」ではない場合も

帰宅後、タカシさんは妻と娘にその出来事を話しました。すると、IT企業で働く娘は、しばらく考えてからこう言いました。

 

「お父さん、それは少し空気を読んだほうがいいかもね」

 

タカシさんが「無理強いはしていない」と反論すると、娘は続けました。

 

「お父さんにそのつもりがなくても、部長から誘われて『行きたくありません』とは言いにくいでしょう。女性社員を1人で誘わなかったのは配慮かもしれない。でも、2人まとめて誘えば断りやすくなるわけじゃないよ」

 

娘自身も職場で、タカシさんと同世代の男性から食事に誘われることがあるといいます。相手に下心や悪意があるとは限らず、仕事ぶりを評価し、親睦を深めようとしてくれていることも理解しています。それでも、断りにくさを感じることはあるそうです。

 

「悪気はないんだろうけど、自分との食事をご馳走することが、若い社員への“ご褒美”になっていると思っている時点で、ちょっとイタいよね。こっちにとっては、必ずしもご褒美になっていないから」

 

娘によると、年上の男性との食事では、相手の昔話を聞き、話題を選び、場の雰囲気を壊さないように相づちを打つことも少なくないといいます。

 

「仕事の延長みたいに気を使って、相手が気持ちよく話せるように振る舞っていると、これって食事というより、ケア労働なのかなって思うときがあるよ。奢ってもらったんだから楽しそうにしなきゃ、という気持ちにもなるし」

 

さらに娘は、「奢る側」と「奢られる側」が負担するものは違うと指摘しました。

 

「お父さんは食事代を払っているから、相手に得をさせていると思っている。でも部下は、そのぶん自分の時間を使い、上司に気を使っているんだよ。お父さんにとっては慰労会でも、相手にとっては勤務時間外の接待みたいに感じることもあるんじゃない?」

 

この言葉に、タカシさんは返す言葉がありませんでした。

 

振り返れば、部下に希望を聞くときも、「食事に行きたいか」ではなく、「肉と魚ならどちらがいいか」「いつなら空いているか」と尋ねていました。食事をすること自体は、すでに決まった前提になっていたのです。

 

「自分と食事をすること」そのものをご褒美だと思っていたのではないか――。娘の言葉は耳に痛いものでしたが、タカシさんは初めて、誘われる側から自分の行動を見直しました。

退勤後の2時間は誰のもの?

厚生労働省が2026年2月に公表した「毎月勤労統計調査」の2025年分速報によると、一般労働者の月間総実労働時間は160.5時間。そのうち、残業や休日出勤などにあたる所定外労働時間は月平均13.2時間でした。

 

タカシさんが勤務する製造業では、一般労働者の所定外労働時間は月平均14.6時間となっています。もちろん、実際の労働時間は勤務先や職種、繁忙期などによって異なります。

上司との食事が、直ちに残業やハラスメントにあたるわけではありません。しかし、仕事を終えたあとに食事へ参加すれば、帰宅はさらに遅くなります。家族との時間や家事、趣味、休息の時間が削られる人もいるでしょう。上司にとっては部下をねぎらうための2時間でも、部下にとっては自由に使えるはずだった2時間かもしれません。

参加しているから、喜んでいるとは限らない

リクルートの「ホットペッパーグルメ外食総研」が2025年5月に公表した「職場の飲み会に対する期待と参加実態を調査」では、首都圏・関西圏・東海圏に住む20~69歳の就業者5,839人を集計しています。

 

職場の飲み会に対するネガティブなイメージとして、最も多かったのは「気を使い、くつろげない」の36.3%。次いで「かえってストレスがたまる」が29.2%、「プライベートな時間が削られる」が28.5%でした。20~50代の女性では、多くの項目でネガティブなイメージを持つ割合が高くなっています。

 

また、今後参加したい職場の飲み会について「どれもない」と答えた人は56.2%。「達成会・打ち上げ」に参加したい人は8.1%にとどまりました。一方、過去1年間に職場の飲み会が開かれた人に限ると、87.9%が何らかの会に参加しています。

 

実際に参加したことと、本人が参加したかったことは必ずしも一致しません。部下が誘いを断らず、食事中に笑顔を見せていたとしても、それだけで「喜んでくれた」と判断することはできないでしょう。

「断っても評価に影響しない」だけでは足りない

その後、タカシさんは予定していた夕食について、女性社員2人にあらためて確認しました。

 

「気を使わせていたら申し訳ない。今回は見送っても構わないし、断っても評価にはまったく関係ない」

 

すると、1人は参加を希望しましたが、もう1人は「実は、その日は早く帰りたかったので助かります」と辞退しました。

 

タカシさんは現在、成果を出した社員をすぐに食事へ誘うことをやめています。勤務時間内に言葉でねぎらい、成果を人事評価に適切に反映させることを優先するようになりました。

 

食事会を開く場合も、「行くこと」を前提に日程を尋ねるのではなく、まず参加を希望するかどうかを確認します。参加は任意であり、欠席者には理由を聞かないことも伝えるようにしました。

 

「まだ少し寂しい気持ちはあります。自分がしてもらってうれしかったことが、今の若い人には迷惑なのか、と。でも娘から、『食事が嫌なのではなく、選べないことが嫌なんじゃない?』と言われました。それなら、確かにそのとおりだと思いました」

 

部下をねぎらいたいという気持ちまで、否定する必要はありません。ただし、上司と部下のあいだには、評価する側とされる側という立場の違いがあります。「自由参加」と伝えるだけでなく、本当に断れる選択肢になっているかを考える必要があります。

 

食事代を誰が払うかだけでなく、そこで使われる時間を誰が負担しているのか。善意を一方的な「ご褒美」にしないためには、相手が自由に選べる余地を残すことが大切です。

 

 

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