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隠された真実と、共倒れを防ぐための境界線
健一さんは、父親の荷物を整理するなかで、一冊のノートを見つけました。そこには、資産運用についての記録とともに、隆さん自身の手書きでいくつかのメモが残されていました。
「孫の大学進学費用」
「息子夫婦への相続」
健一さんは、初めて父親がなぜ積極的な運用を続けていたのかを知りました。もちろん、結果として大きな損失を出したことに変わりはありません。それでも、単に「自分勝手にお金を使った」と考えていたときとは、見え方が違いました。
妻を亡くしてから、父親は一人で生活していました。「まだ自分は大丈夫だ」と考え、子どもには弱みを見せたくなかったのでしょう。そして、将来、孫や息子夫婦に少しでも資産を残したいという思いもあったようです。
非常にプライドの高い父親です。常に良い顔をしたいのです。すべて納得のいく行動でした。しかし、健一さんは父親の思いを知ったからといって、同居を続けることが正解だとは考えませんでした。
自分には妻と子どもの生活があります。父親の生活を支えることと、自分の家庭を犠牲にすることは別の問題です。そこで健一さんは、まず地域包括支援センターに相談しました。高齢者の生活上の困りごとについて相談できる窓口につなぎ、住まいや生活費、今後の生活設計について整理していきました。
また、金融商品の契約や残された資産については、専門家にも相談。運用状況を確認し、今後の返済や資産整理について一つずつ対応することにしました。
民法第877条第1項では、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められています。ただし、親の生活を支えるために、子どもが自分の家庭の生活を維持できなくなるまで負担しなければならない、という意味ではありません。具体的な扶養の範囲や方法については、親の生活状況や子の資力など、個別の事情を踏まえて判断されます。
健一さんは、父親にこう伝えました。
「同居はできない。でも、生活を立て直すために必要なことは一緒にやる」
最初、隆さんは強く反発しました。
「親を見殺しにするつもりか! 」
しかし、健一さんは同居だけを拒むのではなく、住まいの確保や公的な相談窓口の利用、資産の整理などを一緒に進めました。最終的に隆さんは、年金収入の範囲で生活できる住まいを探し、転居することになりました。
このように高齢期の資産管理や生活設計で孤立・困窮するケースは少なくありません。
内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、公的年金・恩給が家計収入のすべて(100%)を占める高齢者世帯は43.4%に上り、年金の範囲内で無理のない生活基盤を築くことの重要性がうかがえます。また、契約当事者が65歳以上の消費生活相談件数は令和7年に約32万件と高水準で推移しており、お金や契約をめぐるトラブルへの対応も課題となっています。
親の自尊心に配慮しつつ共倒れを防ぐには、一人で抱え込まず地域包括支援センター等の公的窓口や専門家に早期相談し、適切な支援制度を活用しながら親子で持続可能な境界線を引くことが不可欠です。