「家族の喜ぶ顔が見たい」という思いで行う支援も、一度習慣化するとやめ時を見失い、親子関係を歪める原因になります。事例とともに、老後資金のリスクと、金銭に依存しない健全な家族との距離感の保ち方を紐解きます。※事例の人物名はすべて仮名です。
お願いだから、もう来ないでほしい…年金月20万円・貯金1,400万円の60代控えめ夫婦、目に入れても痛くなかった孫に「怯えている」ワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

孫の笑顔と「断れない性格」が招いた残酷な結果

「今週末、子どもたちを連れて遊びにいっていい?」

 

長女からスマホにメッセージが入るたび、ハルオさん(68歳)とヒロミさん(66歳)の夫婦は、嬉しさよりも前に恐ろしさを感じるようになりました。

 

二人揃って昔から自己主張が苦手で、波風を立てることをなにより嫌う控えめな性格です。自分たちの暮らしぶりは非常に質素で、普段の買い物では夕方のタイムセールを狙い、服も十数年間同じものを着回すような倹約生活を送ってきました。「夫婦で温泉旅行に行こうか」という話が出ても、「贅沢はまだ早い」「なにかあったときのお金をとっておこう」と互いに遠慮し合うような慎ましい夫婦です。

 

住宅ローンを完済した持ち家で暮らす二人の収入は、合計で毎月約20万円の公的年金のみ。預貯金は約1,400万円を確保しています。

 

そんな控えめな夫婦にとって、車で20分ほどの場所に住む娘と孫(中学生と小学生)の存在は、生活の唯一の華でした。孫が訪ねてくれば、ヒロミさんは朝から張り切って好物を用意し、帰り際になればハルオさんが「これで好きなものでも買いなさい」と、孫一人ひとりに3,000円ほどのお小遣いを手渡すのが恒例となっていました。

 

しかし、孫が成長するにつれて、「出さなければ」「助けてあげなければ」と感じる金額の桁が変わっていきます。

 

中学校の入学時には制服や備品の購入費用として5万円、部活動の道具代に3万円。さらに、下の孫にも差をつけてはかわいそうだという遠慮も働き、出費は年を追うごとに雪だるま式に膨らんでいきました。娘からも「塾の夏期講習代がどうしても足りなくて」「今度の誕生日は欲しいものが3万円くらいするの」と直接頼まれるようになり、気弱な夫婦は「せっかくの雰囲気を壊したくない」「嫌われたくない」一心で、一度も首を縦に振ることをやめられませんでした。

 

気づけば、孫や娘一家への援助や外食の奢りだけで、年間50万円以上が掛かる年が続いていました。目に入れても痛くないほど可愛い孫ですが、もはやその存在に怯えています。

 

夫婦の将来には、自宅の給湯器や外壁の修繕、自分たちの通院費用や将来の介護資金など、確実にかさむ支出が控えています。「このままでは自分たちの老後資金が底をついてしまう」と危機感を抱いたハルオさんは、孫の高校入学祝いとして10万円を打診された際、意を決して初めて申し出を断りました。

 

「ごめんね、これからはいままでみたいに大きな金額は出せないんだ。自分たちのこれからの生活費も残しておかないといけないから……」

 

ヒロミさんも隣で申し訳なさそうに頭を下げました。その場は理解を示したように見えた娘でしたが、高校の入学祝いとして1万円を渡したころを境界線に、娘一家の態度は一変します。

 

あれほど頻繁だった週末の訪問はぱったりと途絶え、たまにハルオさんが「たまには顔を見せにおいで」と連絡を入れても、「子どもたちの部活が忙しい」「予定が入っている」といった理由で断られるようになりました。

 

金銭的な援助を絞った途端に冷え切ってしまった親子関係。ハルオさんは複雑な表情で表情でこう呟きます。

 

「お金が出せないなら、いっそ最初から期待させなければよかった」