一度は実家を離れた中年期の子どもが、さまざまな理由で再び親と同居を再開――親の善意や同情から始まる新しい生活ですが、明確な境界線を設けない金銭支援は、家計の破綻や家族関係の崩壊を招く危険を秘めています。ある親子の事例から、親子間における適切な金銭的距離感の重要性について考えます。
「この家から出ていけ!」〈年金月17万円〉75歳父、激怒。事業失敗で実家に身を寄せた47歳息子に「絶縁」を言い渡したワケ ※写真はイメージです/PIXTA

月17万円の年金で暮らす75歳父親の誤算

東京都内で一人暮らしをしていた佐藤清さん(75歳・仮名)は、月額17万円の年金で穏やかな老後を送っていました。妻を数年前に亡くしたものの、質素な生活により毎月少額の貯蓄を残す余裕もありました。

 

しかし、平穏な日常は突如崩れ去ります。一人息子の佐藤健太さん(47歳・仮名)が、大きな荷物を抱えて実家へ戻ってきたのです。健太さんは脱サラしてIT企業を経営していたものの、事業に失敗し多額の債務を抱えていました。

 

「やり直しの準備をする間だけ居させてほしい」と頭を下げる健太さんに対し、清さんは「一時的になら構わない」と受け入れました。困窮する我が子を無下に追い出すことはできなかったためです。

 

ところが、同居が始まると健太さんは自室に閉じこもるようになりました。次に向けて何かするわけでもなく、日中はゲームや動画閲覧に時間を費やします。清さんの食費や光熱費は以前の1.5倍以上に膨らみました。

 

内閣の『こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)』によると、40歳〜69歳の中高年層のひきこもり(広義)において、主に生計を支えている人の収入源は「年金」が56.8%と半数を超えており、全体平均(16.9%)に比べて高い割合となっています。中高年の子どもが親と同居し、生活費を親の公的年金に依存する世帯では、経済的困窮に陥るリスクが高まりやすい構造にあるといえるのです。

 

清さんの月17万円の年金だけでは、成人男性2人分の生活費を賄いきれません。毎月数万円の赤字が発生し、清さんの老後資金は削られていきました。健太さんに「これからどうするつもりだ」と尋ねても、「分かっている。うるさく言わないでくれ」と返されるだけです。清さんは息子を追い詰めてはいけないと考え、強く追及できずにいました。