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高齢親の「在宅への執着」と限界を迎える遠距離介護の実態
田辺節子さん(83歳・仮名)は、夫に先立たれてからの10年間、地方都市にある戸建て住宅で一人暮らしを続けていました。受給している公的年金は月額約14万円です。数年前から膝の持病が悪化して歩行が困難になり、日常生活に支障をきたす場面が増えていきました。
都内の会社で働く娘の小林美咲さん(46歳・仮名)は、週末を利用して実家へ通い、掃除や買い出しを行うなど、できるかぎりの生活サポートをしてきました。しかしフルタイムで仕事をしながら、新幹線を使って週末ごとに帰省する生活です。交通費は自己負担となり、自身の仕事との両立も難しく、美咲さんの身体的・精神的な疲弊はピークに達していました。
厚生労働省の「2022年 国民生活基礎調査」によると、要介護者等と同居する主な介護者のうち、60歳以上が63.5%を占めるなど介護者の高齢化が顕著です。また、同調査や関連資料では、別居介護における遠距離移動に伴う経済的負担や、仕事と介護の両立難度が課題として挙げられています。年間約10万人が介護を理由に離職しており、公的支援を受けずに家族間だけで介護を抱え込む構造が、介護者の就労継続や心身の健康を脅かす大きな要因となっています。
美咲さんは節子さんの暮らしを守るため、バリアフリー設備と見守りサービスが整った「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」への入居を提案しました。
「実家から近い場所に新しくオープンしたと耳にして見学に行ったら、想像以上によかったんです」
入居に関わる初期費用や月々の利用料は、節子さんの年金と蓄え、さらに美咲さんからの補填で十分に対応できる試算でした。
しかし、この提案に対して節子さんは激しく反発します。
「住み慣れた家を離れたくない」
「私を捨てて施設に放り込む気か」
美咲さんが安全上のリスクを説明しても耳を貸さず、話し合いは毎回平行線を辿ります。節子さんの暴言も次第にエスカレートしていきました。
ある日の夜、美咲さんが再びサ高住のパンフレットを見せながら説得を試みたところ、節子さんはそれを床に投げつけました。
「また娘は私を捨てようとしている。もう、生きていくのもツライだけだ」
激しく責め立てるなか、美咲さんも限界を迎えます。
「もうこれ以上は無理。二度と連絡してこないで」
そう言い残して実家を後にしました。節子さんは一人取り残された部屋で涙を流しました。