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「私、ここで何をすればいいの?」母が語った本音
和子さんは、施設で不自由なく生活していました。
朝になれば食事が出てきて、部屋の掃除もしてもらえます。必要なものがあればスタッフに相談でき、体調が悪ければ対応してもらえる体制もありました。
けれど、和子さんには自分でやることがほとんどありませんでした。自宅にいたころは、朝起きれば洗濯をし、食べたいものがあれば買い物に出かけていました。庭の手入れもしていました。施設では、そうしたことのほとんどをスタッフがしてくれます。
「ここでは、何でもやってくれるの。ホテルみたいなの」
和子さんは娘にそう話しました。不満を訴えているわけではありません。むしろ、スタッフには感謝していました。
ただ、毎日の生活のなかで、自分で決めたり、自分で動いたりする場面が減っていたのです。
「することがないの。話すこともほとんどないし」
ほとんどの入居者は介護を必要としています。なかには、コミュニケーションさえ難しくなっている入居者もいました。身の回りのことを自分でこなせる和子さんと対等に話ができる人は、入居者にはいなかったのです。
施設に入れば安心――ところが母にとっては、安心と引き換えに、自分で生活する機会や人とのコミュニケーションが減っていました。
内閣府『令和7年 人々のつながりに関する基礎調査結果』によると、同居していない家族や友人と「直接会って話す」頻度が月1回未満(12.7%)やまったくない(9.7%)など、対面での交流が乏しい人ほど孤独感を感じやすい傾向が示されています。また、不安や悩みの相談相手が「いない」人では、23.4%が孤独感を「しばしばある・常にある」と回答しています。
真由美さんは母に尋ねました。
「家に戻る? 私のうち」
和子さんは少し考えてから答えました。
「大丈夫よ。あなたには、あなたの家族がいるんだから」
ここを出たい。でも娘家族に気を遣わせる生活も嫌だ。自宅も売ったから、どこにも行けない――これが母の本音です。
転居も提案しましたが、「お金がもったいないから、気を遣わないで」と和子さん。真由美さんは、「お母さん、本当にごめん……」と言うしかなかったといいます。
ひと口に老人ホームといっても多種多様なスタイルがあります。入居者の安全を第一に考えることも重要ですが、さらにどのような暮らしを送れるか、具体的にイメージして決めることが大切です。