年金生活に入れば、現役時代より家計に慎重になる人も多いでしょう。総務省「家計調査」によると、2025年の65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、月の実収入は平均25万4,395円。一方、消費支出は26万3,979円で、税金や社会保険料などを含めると、毎月の収支は平均で赤字となっています。そんななか、実家へ帰るたび、母親が「ハイブランド」の服を着るようになっていることに気づいた30歳の一人娘。老後資金は大丈夫なのか――。心配して母に尋ねてみると、思いがけない日々の過ごし方が見えてきました。
お母さん、老後のお金は大丈夫なの?30歳一人娘、実家に帰るたび増えていく〈年金月28万円〉68歳母の「高級ブランド服」に募る不安…娘も想定外だった「母の老後生活」 (※写真はイメージです/PIXTA)

6着売って3,000円。「今あるものを大切にしたい」

さらにミチコさんは、服を買っているだけではありませんでした。

 

父と一緒に駅ビルに入っている別のリユースショップへ出かけた際には、現役時代に買ったものの、退職後はほとんど着なくなった服を6着ほど買い取りで持ち込みました。査定額は合わせて約3,000円。1着1,500円ほどの値段がついたものもあれば、100円ほどのものもあり、価格はバラバラでした。

 

それでもミチコさんはうれしそうでした。

 

「もう着ないものは手放して、着てもらいたい人に着てほしいの。汚れていないし、ものはとてもいいものだから。これ以上、物を増やすのもどうかと思うし、お気に入りのものを大切にしたいの」

 

さらに、こう続けました。

 

「散々、新しい服を買ってきた私が言うのもなんだけどね。服をどんどん買って、どんどん捨てるのって、環境にもよくないでしょう。これからは、今あるものを大切にしたいと思ったの。新しい服は、買わないつもりよ」

 

かつては新品の服を買うことが当たり前だったミチコさんですが、今ではすっかり古着の魅力に惹かれていました。手元に残すのは、本当に気に入ったもの。そして着なくなった服は、まだ着られるうちに次の人へ渡す。

 

ユイさんには、母が単に「安くブランド服を買えるから」古着に夢中になっているわけではないことがわかってきました。

売った服が、父の1,500円のTシャツに

その日の売却代金で、母が選んだのが父のTシャツでした。

 

「これ、お父さんに似合うんじゃない?」

 

値段は1,500円ほど。母が選ぶブランド古着とは文字どおり桁が違いますが、服に無頓着だった父は意外にも気に入った様子。

 

「これ、いいな」とうれしそうに着ていました。

 

「母が自分の昔の服を売って、そのお金で父の服を選んでいたんです。なんだか楽しそうでした」

「趣味代くらいは自分で稼ぎたくて」

ユイさんがさらに驚いたのは、母が週に2~3回、スキマバイトにも出かけていることでした。

 

「仕事を辞めたら時間もあるでしょう。それに、趣味代くらいは自分で稼ぎたくて」

 

そう言って、ミチコさんは少し照れたように笑ったそうです。

 

数年前まで働いていた母にとって、退職後に突然増えた時間をどう過ごすかも課題だったのでしょう。時々働く。古着店へ出かける。店主と話し、新しいことを知る。そして、自分で稼いだお金の一部で好きな服を探す。

 

「老後のお金を心配していたのに、母は母でちゃんと考えていたんですよね。『趣味代くらいは』ってはにかむ母が、なんだか少女みたいに見えました」

拡大するリユース市場。でも、「安いから買う」には注意

ミチコさんのように、中古品を日常の買い物に取り入れる人は珍しくなくなっています。

 

環境省によると、国内のリユース市場は拡大傾向にあり、一般消費者の最終需要ベースでは2012年の3兆1,047億円から、2024年には3兆4,986億円まで増加しました。2021年と比べても2.8%増えています。この市場には中古車やバイク、家電、書籍など幅広い商品が含まれますが、2024年には「ブランド品」が2,208億円、「ブランド品を除く衣類・服飾品」も1,099億円の市場となっています。

 

リユースの魅力のひとつは、新品では手が届きにくい商品を比較的手頃な価格で購入できることです。一方、売る側に回った場合、購入時の価格にかかわらず高値がつくとは限りません。商品の状態や需要、ブランド、年代などによって査定額は大きく変わります。

 

ミチコさんが現役時代の服6着を持ち込んだ際も、1着1,500円ほどの値段がついたものがある一方、100円だったものもあり、合計の査定額は約3,000円でした。

 

また、中古品だからといって、家計への影響が小さいとは限りません。「安いから」と購入を重ねれば、当然ながら支出は膨らみます。特に年金生活では、日々の生活費だけでなく、将来の医療費や介護費なども見据えながら、趣味や娯楽に使える金額をあらかじめ考えておくことが重要です。

 

その点、ミチコさんは、着なくなった服は手放し、週に2~3回のスキマバイトで趣味に使うお金の一部を補いながら、気に入った古着を楽しんでいました。さらに、ミチコさんにとってリユースは、単なる節約手段でもなかったようです。

 

「もう着ないけれど、まだ十分着られる服を、次の人に着てもらいたい」。そんな思いから現役時代の服を手放し、その売却代金で夫のTシャツを選ぶ。新品を次々と買うのではなく、今あるものを大切にしながら必要なものを選ぶという、消費に対する考え方そのものが変化していました。

 

後日、娘のユイさんも母お気に入りの古着店を訪れ、結局は自分も気に入った服を購入したそうです。当初は母の老後資金を心配していたユイさんでしたが、実際に見えてきたのは、限られた収入のなかで支出を工夫しながら、新しい趣味や人とのつながりを楽しむ母の姿でした。

 

老後の家計を守るためには、支出を抑える視点は欠かせません。しかし、ただ消費を我慢するだけではなく、予算の範囲内で楽しみ方を変えるという方法もあります。

 

リユースを利用する、不要なものを手放す、必要であれば無理のない範囲で働いて趣味費を補う――。ミチコさんの事例は、収入が限られる老後においても、家計とのバランスを取りながら自分らしい楽しみを持ち続ける一つの形といえそうです。

 

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