熟年離婚が増えています。長い結婚生活を経ての離婚、そこへ至るには、相応の葛藤と熟考の末の決断でしょうが、なかには後悔を口にする人も……。事例を見ていきましょう。※事例の人物名はすべて仮名です。
「熟年離婚、後悔しています…」年金分割で年金が月17万円に増え、財産分与で家と3,500万円手に入れた65歳女性。夫とあんなに別れたかったのに、“いまさら悔やむ”理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

夫が去った思い出のマイホーム

しかし、引っ越しのトラックが去り、タカフミさんの荷物がすべてなくなった殺風景な部屋にぽつんと立った瞬間、ハナエさんの目から思わず涙があふれ出しました。

 

「ついに本当に一人になったんだ……。あんなに嫌だった夫なのに、もうテレビを見る音も、足音も聞こえないんだ」

 

あんなに別れたかったはずなのに、家の中に漂う圧倒的な静けさが、強烈な寂しさとなってハナエさんに襲いかかりました。

 

「自分たちで納得して決めた離婚であり、後悔などしていないつもりでした。でも、やっぱり後悔があります」

 

ふと「これから先、ずっと一人で生きていくのか」という漠然とした不安が頭をよぎると、胸が締め付けられ、情緒不安定気味になる日が増えていったそうです。どんなに不満がある相手であっても、「誰かが同じ空間にいる生活」と「完全に一人の生活」は、まったく別物であったことを痛感しました。

 

現在、ハナエさんは葛藤する気持ちを抱えながらも、一歩ずつ前を向こうと奮闘しています。思いきりおしゃれをして出かけたり、気になっていたお店で少し高いランチを楽しんだり、長年やりたかった趣味に没頭したり。夫に気兼ねなく旅行へ出かけるなど、一人ならではの自由を噛み締めながら、第二の人生を自分らしく彩るための模索を続けています。

熟年離婚後の課題

厚生労働省『令和6年人口動態統計』によると、同居期間20年以上の熟年夫婦による離婚は年間4万組を超え、全離婚件数の2割以上を占めています。長年連れ添った夫婦が別々の道を歩む選択はいまや珍しくありませんが、離婚成立後に訪れる「経済的・精神的ギャップ」へのケアは非常に重要です。

 

まず経済面においては、公的年金の分割手続きを行うことで専業主婦・パート主婦だった側の収入を増やすことができます。厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、女性の平均年金受給額は月額11万1,413円となっており、年金分割によって年金額を増額できれば、単身での生活基盤を整えやすくなります。

 

ただし、注意が必要なのは固定費のバランスです。持ち家を取得して家賃負担をゼロにしたとしても、固定資産税や戸建て・マンションの維持修繕費、日常の光熱費や食費は一人暮らしになっても半分にはなりません。同居時代よりも一世帯あたりの生活効率は落ちるため、財産分与で得た資産や年金額に応じた計画的な家計管理が求められます。

 

そして経済面以上に大きな課題となるのが、ハナエさんのように「寂しさや漠然とした不安」から生じる情緒的な負担です。長年当たり前に存在した配偶者の気配や生活音が消えることで、一時的に強い喪失感や精神的ストレスを抱えるシニアは少なくありません。

 

熟年離婚後のセカンドライフを真の意味で豊かなものにするためには、単に過去の不満から逃れるだけでなく、一人になったあとの暮らしをどのように彩るかという肯定的なビジョンが不可欠です。ハナエさんのように、趣味や外出、友人との交流、地域コミュニティへの参加などを通じて「自分のための時間」を意識的に増やしていく取り組みは、精神的な孤立を防ぐうえで効果的でしょう。お金の裏付けと人間関係の再構築を両立させていくことで、葛藤の先にある本当の平穏と新しい自由を手に入れられるのではないでしょうか。

 

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