(※写真はイメージです/PIXTA)
寂しさを埋めるための「日課」
娘のサナさん(42歳)は、実家で一人暮らしをする父・サブローさん(69歳)と、それほど頻繁に連絡を取り合う間柄ではありませんでした。4年前に母が他界して以降、生活面での最低限の確認こそすれど、互いのプライベートに深入りしすぎない距離感を保っていたのです。
一方のサブローさんの唯一の楽しみは、近所のショッピングモールにある乗合型の保険ショップに通うことでした。
月15万円の年金で一人静かに暮らすサブローさんにとって、妻を亡くしたあとの自宅はあまりにも静かすぎました。散歩がてらふらりと立ち寄った保険ショップで、笑顔の若いスタッフがお茶を出しながら根気強く昔話や体調の悩みを聞いてくれたことが、サブローさんにはたまらなく嬉しかったのです。
やがてサブローさんは「毎日10分だけスタッフと話す」ことを日課にするようになりました。店舗のスタッフにとっても、いつも立ち寄ってくれる穏やかな常連客です。親しく会話を重ねるなかで、サブローさんの預金状況や将来の不安を自然な流れで聞き取っていきました。
「毎月のお年金から少しずつ残している貴重なお買い物資金や貯金、そのまま普通預金に置いておくのは勿体ないですよ。ご自身のこれからの豊かな暮らしとお小遣いのために、毎月お給料のように受け取れる『一時払い個人年金保険』にまとめておきませんか?」
いつも親身に話を聞いてくれるスタッフの言葉に、サブローさんは二つ返事で頷きました。「自分を親切に扱ってくれる相手の役に立ちたい」「話し相手になってくれたお礼に」という心理も働き、亡き妻の遺品整理で出てきた預金と退職金の残りから、500万円を一時払い保険へ投じます。
娘が見つけた500万円の保険
事態が発覚したのは、久しぶりに実家を訪れたサナさんが、テーブルの上に置かれた保険証券を発見したときでした。
「お父さん、月15万円の年金暮らしで、この保険なに?」
問い詰めるサナさんに、サブローさんは申し訳なさそうに「いつもお店の人が優しく話を聞いてくれるから……」とボソボソと答えました。それを聞いたサナさんの頭には猛烈な怒りが湧き上がりました。普段頻繁に様子を見に行っていなかった自分への罪悪感も混ざり合い、その怒りはそのまま保険ショップへと向かいます。
サナさんは店舗へ直接出向き、「一人暮らしで寂しがっている高齢者の気持ちにつけ込んで、こんな高額な契約をさせるなんてあんまりだと思います」と強く抗議しました。
しかし、応対した店舗側からは、高齢者勧誘時の適合性確認や意向確認書、複数回にわたる説明の記録を提示され、法令上の説明義務違反や不備は一切認められません。相手側も悪意があったわけではなく、あくまで「親切丁寧な顧客対応と正規の営業活動」を行ったに過ぎなかったのです。
サナさんは、保険会社や店舗側のビジネスとしての理屈を理解しつつも、父の「孤独」が商品に変わってしまったような割り切れない怒りと悲しさに、ただ拳を握りしめるしかありませんでした。