(※写真はイメージです/PIXTA)
「このままだったら、一緒にいるのは無理」
その後も、夫からの連絡は続きました。
ある日、疲れた顔をするユカさんに、マサトさんは、
「でも、病気じゃないんだからいいじゃん」
と言いました。
その言葉が胸に刺さりました。
「夫は病気だから大変。私は健康だから大丈夫。いつの間にか、そういうことになっていたんですよね」
数ヵ月後、マサトさんの体調は少しずつ回復し、職場復帰の話も出始めました。
ある夜、夫が嬉しそうに言います。
「元気になったら、久しぶりに旅行に行こうよ」
しかし、ユカさんの頭に最初に浮かんだのは、
「行きたくない」
という気持ちでした。
「夫が元気になるのを待っていたはずなのに、全然うれしくなかった。そのとき初めて、離婚という言葉が頭に浮かびました」
ユカさんは後日、夫に自分の気持ちを伝えました。
「あなたが病気だから嫌なんじゃない。でも、不安も寂しさも全部私が受け止めるのが当然みたいになっているのが苦しかった。このままだったら、一緒にいるのは無理だと思った」
マサトさんはしばらく黙ったあと、
「そんなに追い詰めているとは思ってなかった」
と答えたといいます。
それから夫は仕事中の連絡を控え、自分でできることはなるべく自分でするようになりました。
ユカさんも、「今は対応できない」と以前よりはっきり伝えるようになったそうです。
離婚については、いったん保留にしています。
「結婚するときに『病めるときも健やかなるときも』って言いますよね。いま、その意味を考えています」
そして続けます。
「病気になった相手を支えることは大事だと思います。でも、支える側が自分の仕事や人生を全部差し出すことまで含まれるのか。それは違うんじゃないかと思うんです」
大切な家族を「捨てるか、背負うか」の二択にしない
家族が病気になると、身体だけでなく気持ちまで弱ることがあります。
不安だから話を聞いてほしい。一人でいるのが怖い。そばにいてほしい――。療養する本人にとっては切実な思いです。
一方、そのすべてを一人の家族が受け止め続ければ、今度は支える側が疲弊する可能性があります。
総務省「令和4年就業構造基本調査」では、2022年に「介護・看護」を理由に前職を離れた人は10万6,000人。そのうち女性は8万人でした。
もちろん、ユカさんは介護離職したわけではありません。しかし、家族の病気や介護が、支える側の働き方や収入に影響を及ぼす問題は決して珍しくありません。
だからこそ、「家族なのだから自分が全部やる」と考える前に、公的制度や外部の力を使う視点も必要です。
療養する本人には、要件に応じて傷病手当金や高額療養費制度などがあります。病気や障害が長期化した場合には、障害年金の対象となるケースもあります。
高齢の親を支える場合には、親が住む地域の「地域包括支援センター」も重要な相談先です。
介護が必要になってからだけでなく、「最近、親の生活が心配」「一人で暮らし続けられるか不安」といった段階から相談することができます。状況に応じて、介護保険サービスや地域の見守り、配食などの生活支援につながることもあります。
必要であれば、家事代行や配食、民間の見守りサービスなどにお金を使うことも選択肢のひとつです。
それは「家族の世話を他人任せにする」ということではありません。
療養する側の生活を守りながら、支える側の仕事や収入、健康も守るために、ケアを家族以外へ分散するという考え方です。
大切な家族が弱ったとき、「見捨てるのか、それとも自分がすべて背負うのか」。
本来、選択肢はその2つだけではありません。
元気なうちから、病気になった場合の収入や貯蓄、公的制度、相談先について知っておくこと。それもまた、「病めるとき」に家族と自分の双方を守るための備えなのではないでしょうか。
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