堅実だと思っていた親の死後、思いもよらない多額の借金が発覚したらどうすべきでしょうか。親の急逝後に想定外の負債が見つかり、相続の判断や手続きに頭を悩ませた女性の事例から、親の負債リスクや後悔しないための対処法を考えます。
「お父さん、嘘でしょ…」〈年金月20万円〉80歳父が急逝、53歳娘が直面した「借金まみれ」という信じがたい現実 ※写真はイメージです/PIXTA

娘「父がどんな人だったのか、わからない」

その後、兄妹は週末ごとに実家へ通いました。

 

通帳、郵便物、財布の中のカード。父の部屋に残された書類を一つずつ確認していきました。すると、620万円だった借金は、さらに増えました。

 

クレジットカードのキャッシング、銀行のカードローン。返済予定表も見つかりました。最終的に判明した債務は約880万円でした。一方、預金残高は約110万円。あとは築45年の実家があります。家を売れば何とかなるのではないか――しかし、兄の反応は違いました。

 

「なんで俺たちが、親父の借金の始末をしなきゃいけないんだよ」

「でも、家をどうするかも含めて考えないと」

「俺は放棄する」

 

一方で、美穂さんは相続放棄をするべきかどうか決めかねていました。父のことを考えれば考えるほど、判断できずにいたといいます。

 

「父は誠実で、堅実な人だった。そんな父に借金なんて……今さらながら、父がどんな人だったのか、分からなくなって、なかなか決断できずにいたんです」

 

それから、父の通帳をさかのぼると、借金が始まる前から、不自然な出金が続いていることに気づきます。

 

最初は30万円。

次は50万円。

 

それ以降も、まとまった金額が何度も引き出されていました。美穂さんが兄と一緒に書類を整理すると、父が数年前、知人から頼まれて金を貸していたことが分かりました。

 

「一度だけじゃなかったんです。『困っている』と頼られたら、断れなかったのでしょう」

 

しかし、貸したお金は戻ってこなかった――ここからはあくまでも想像です。預貯金が減り始めると、父はカードローンを利用するようになったのでしょう。返済のために預貯金を崩し、それでも借金はどんどん膨れ上がっていったのだと考えられます。


やがて美穂さんは、父のスマートフォンに残されたメッセージを見つけます。知人に送った短いメッセージ。


「今月はもう無理だ。年金だけでは返せない」


そのメッセージを見たとき、美穂さんは初めて、父がどこまで追い詰められていたのかを知りました。


「父は良くも悪くも昔の人。弱いところを子どもには見せられなかったのでしょうね……」


結局、美穂さんは、父の財産と借金を整理しました。自宅は売却すれば一定の資金になる見込みでした。しかし、自身が生まれた実家への思いもありました。


一方で、兄はこう言いました。


「気持ちで決めるなよ。まだ借金が出てきたらどうするんだ」


親の死後に想定外の借金が発覚し、相続放棄すべきか悩むケースは少なくありません。

 

最高裁判所『令和7年 司法統計年報(家事編)』によると、同年に全国の家庭裁判所が受理した「相続の放棄の申述の受理」件数は323,524件に上り、多くの人が手続きを利用しています。

 

一方で、プラスの財産の範囲内で債務を清算する「相続の限定承認の申述受理」は僅か637件。相続放棄等には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」という厳格な期限があります。手遅れになる前に財産や債務を精査し、専門家へ迅速に相談することが重要です。