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娘「父がどんな人だったのか、わからない」
その後、兄妹は週末ごとに実家へ通いました。
通帳、郵便物、財布の中のカード。父の部屋に残された書類を一つずつ確認していきました。すると、620万円だった借金は、さらに増えました。
クレジットカードのキャッシング、銀行のカードローン。返済予定表も見つかりました。最終的に判明した債務は約880万円でした。一方、預金残高は約110万円。あとは築45年の実家があります。家を売れば何とかなるのではないか――しかし、兄の反応は違いました。
「なんで俺たちが、親父の借金の始末をしなきゃいけないんだよ」
「でも、家をどうするかも含めて考えないと」
「俺は放棄する」
一方で、美穂さんは相続放棄をするべきかどうか決めかねていました。父のことを考えれば考えるほど、判断できずにいたといいます。
「父は誠実で、堅実な人だった。そんな父に借金なんて……今さらながら、父がどんな人だったのか、分からなくなって、なかなか決断できずにいたんです」
それから、父の通帳をさかのぼると、借金が始まる前から、不自然な出金が続いていることに気づきます。
最初は30万円。
次は50万円。
それ以降も、まとまった金額が何度も引き出されていました。美穂さんが兄と一緒に書類を整理すると、父が数年前、知人から頼まれて金を貸していたことが分かりました。
「一度だけじゃなかったんです。『困っている』と頼られたら、断れなかったのでしょう」
しかし、貸したお金は戻ってこなかった――ここからはあくまでも想像です。預貯金が減り始めると、父はカードローンを利用するようになったのでしょう。返済のために預貯金を崩し、それでも借金はどんどん膨れ上がっていったのだと考えられます。
やがて美穂さんは、父のスマートフォンに残されたメッセージを見つけます。知人に送った短いメッセージ。
「今月はもう無理だ。年金だけでは返せない」
そのメッセージを見たとき、美穂さんは初めて、父がどこまで追い詰められていたのかを知りました。
「父は良くも悪くも昔の人。弱いところを子どもには見せられなかったのでしょうね……」
結局、美穂さんは、父の財産と借金を整理しました。自宅は売却すれば一定の資金になる見込みでした。しかし、自身が生まれた実家への思いもありました。
一方で、兄はこう言いました。
「気持ちで決めるなよ。まだ借金が出てきたらどうするんだ」
親の死後に想定外の借金が発覚し、相続放棄すべきか悩むケースは少なくありません。
最高裁判所『令和7年 司法統計年報(家事編)』によると、同年に全国の家庭裁判所が受理した「相続の放棄の申述の受理」件数は323,524件に上り、多くの人が手続きを利用しています。
一方で、プラスの財産の範囲内で債務を清算する「相続の限定承認の申述受理」は僅か637件。相続放棄等には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」という厳格な期限があります。手遅れになる前に財産や債務を精査し、専門家へ迅速に相談することが重要です。