被相続人の財産に関する最終の意思表示である「遺言書」。大切な資産のゆくえを決定づけるその1通は、時に残された家族の運命を大きく揺るがすことがあります。親の資産をアテにし続けてきた男の前に突きつけられた、思いもよらぬ遺言書の中身とは――。事例を見ていきます。※事例の人物名はすべて仮名です。
長男「弟は、想像だにしていなかったでしょう」…年金月6万円、実家で遊び惚ける〈働いたことのない66歳次男〉。資産2億円の92歳亡父が最期、“心を鬼に”した結果 (※写真はイメージです/PIXTA)

「遺留分」すら請求させない

長男によると、父親は法律の専門家に相談し、遺留分(法定相続人に最低限保障される取り分)の計算まで完璧に織り込んだうえで資産を配置していたといいます。

 

仮になにも対策をせず2億円の遺産を残した場合、次男の法定相続分は2分の1(1億円)となり、その遺留分は4分の1の5,000万円になります。この場合、自宅(4,000万円)を譲るだけでは1,000万円足りず、コウジさんから不足分の現金を請求される恐れがありました。

 

そこで父親が活用したのが、「生命保険」です。

 

法制度上、生命保険金は受取人固有の財産とみなされ、原則として遺産分割の対象となる相続財産から除外されます。父親は4,000万円分を一時払い終身保険として長男と孫を受取人に指定しておくことで、相続財産の総額を2億円から1億6,000万円へと圧縮させました。

 

対策後の相続財産:1億6,000万円

コウジさんの法定相続分(2分の1):8,000万円

コウジさんの権利としての遺留分(4分の1):4,000万円

 

これにより、コウジさんの遺留分は4,000万円まで引き下げられました。父がコウジさんに渡した「自宅土地・建物(4,000万円相当)」は、まさにこの遺留分を満たす額だったのです。結果としてコウジさんは、兄や孫に対して追加の資金を請求する法的手段すら完全に封じ込められました。

 

なお、生命保険金であっても、遺産総額に対する保険金の割合が極端に大きく、ほかの相続人とのあいだに著しい不公平が生じると裁判所に判断された場合(特段の事情)、例外的に特別受益として遺留分計算上の持戻し対象となるケースがあります。実務においては事前に相続に詳しい弁護士や税理士への確認が不可欠です。

 

最期の最期で父が、心を鬼にした結果

父の想いも虚しく、人はそう簡単に変わることはできないようです。

 

手元に現金がないコウジさんは、残された自宅を売却。税金や解体費用などを差し引き、手元に残った約3,000万円を元手に賃貸アパートでの生活を始めました。しかし、金銭感覚が壊れたままのコウジさんは計画的な利用ができず、数年のうちに大半を使い果たしてしまったのです。

 

残高が底をつきかけたコウジさんは、ついに兄のコウイチさんに泣きつきました。

 

「金がもうすぐなくなる。頼むから援助してくれ!」

 

しかし、コウイチさんの返答は冷徹なものでした。

 

「父さんは亡くなる前、『コウジがいくら困っても絶対に助けるな。あいつに金をやるのは、首を絞めるのと同じだ』といっていた。俺は父さんとの約束を守る。一銭も出せない」

 

すがりつく相手を完全に失ったコウジさんは、受給できる月6万円の年金と、残りわずかな口座残高を前にして、絶望に打ちひしがれています。

 

「これからどうすればいいんだ……。生活保護を受けるしかないのか…」

 

66歳にして初めて直面する「本当の困窮」に、コウジさんは震える日々を送っています。