ローンさえ完済すれば老後に持ち家があることは、安心感を生むでしょう。しかし、購入時や若いころにはあまり想定していなかった負担が徐々に増えることも……。本記事では、Aさん夫婦の事例から、合同会社ミコサポ代表の三藤桂子氏が、老後の住み替えについて解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
頑張ってローンを完済したが…「マイホーム」と老後に決別。年金月10万円・75歳夫婦が思い切って、「市営団地」へ移り住んだ理由【社労士FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

セカンドライフにローンがない安心感

75歳になったAさん夫婦は、年金120万円(月額10万円)を受け取りながら、貯蓄を切り崩して生活しています。自営業だった夫婦の年金受給額は、同世代でずっと会社員の人と比べると、少ない水準です。

 

しかしながら、住宅ローンは年金受給前に完済していたため、当初は「ローンさえ終わっていれば、年金が少なくてもなんとかなるだろう」と思っていました。自営業には定年がないため、生涯現役で頑張れば生活を維持できるはずでした。

 

内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、2022年の日本の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳となっています。その一方で、日常的に介護を必要とせず自立して過ごせる「健康寿命」とのあいだには差があり、男性で8.48歳、女性で11.64歳の開きが存在します。

 

このように健康寿命との差がある以上、生涯現役を目指していても、職種によって早期の引退を余儀なくされる場合があります。

 

Aさんは個人タクシーの運転手でした。近年、高齢者の自動車運転事故等が増加していることもあり、妻から「事故を起こす前に仕事を辞めましょう」と説得を受け、70歳を機に引退。Aさんとしては、まだまだ運転に自信があり、続けたい思いも強かったのですが、心配する妻の心配する様子を汲んで、「いまはローンもないから辞めてもいいか」という気持ちになりました。

貯蓄1,000万円、もって10年…

70歳で完全引退したAさん。個人事業主であり、若いころに国民年金を未納していた時期もあるため、夫婦の年金は月10万円程度にとどまります。質素倹約しても毎月の生活費は15万円程度掛かっていました。

 

毎月発生する5万円の赤字に加え、私用で使う車の維持費や自宅の固定資産税、修繕など臨時でかかる支出は、貯蓄を切り崩して生活するしかありません。Aさん夫婦の貯蓄は約1,000万円あり、特に資産運用もしていませんでした。このまま毎月毎月赤字の補填で貯蓄を切り崩していくと、10年ほどで貯蓄が底を尽きてしまう試算になります。

 

平均寿命を迎えるころに貯蓄がなくなり、年金のみの生活になれば、老後が破綻するのは明白でした。

 

夫婦で相談した結果、Aさんたちはまず車を手放すことに。それでも今後、病気や介護などで、想定外のお金が必要になることもあるでしょう。お互いに介護が必要になれば、高齢者の介護を高齢者が行う「老々介護」となるリスクもあり、施設への入所も視野に入れなければなりません。

 

将来への不安を抱えていたAさん夫婦ですが、そんなある日、さらに追い打ちをかけるような出来事が襲います。近年、増えている自然災害により、Aさんの自宅周辺も想定外の大雨で床下浸水する被害に遭ったのです。幸いにも床下浸水に留まったものの、排水作業や汚泥の除去、消毒や洗浄といった復旧費用が必要となりました。