年齢を重ねるほど、「管理職経験がないと転職が難しくなる」という話をよく耳にします。しかし、一定の年齢になれば全員が管理職になれるわけではありません。管理職を経験する機会がなかった人や、あえて管理職の道を選ばなかった人もいるでしょう。では、管理職の経験がない中高年は転職ができないのでしょうか。54歳で会社からリストラを通告された沢田守さん(仮名・54歳)の事例を見ていきましょう。
「あの人が親父だったら辛すぎて泣く」リストラされた54歳男性、20代の若手社員に同情されても〈人生逆転で晴れやか〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

役職なしの54歳会社員、リストラを通告される

沢田守さん(仮名・54歳)は、14年間勤めた家電メーカーを退職することにしました。退職のきっかけは、会社から受けた「とある通告」です。

 

「役職に就いていない50代以上の社員を対象に、退職勧奨を行います」

 

8歳年下の上司から会議室に呼び出され、沢田さんは静かにリストラを告げられました。

 

「このまましがみついても居場所はない。会社に迷惑をかけるくらいなら、スッパリと決断しよう……」

 

こうして、沢田さんは会社を去ることを決意しました。会社が提示した希望退職に応じることになったため、割増退職金として150万円が受け取れることも聞かされました。

 

今回のリストラで会社を去ることになったのは、沢田さんを含めて5名。沢田さんは独身で子どももいませんでしたが、中には中学生や高校生の子どもがいる人もいました。

 

「とりあえず転職活動しなくちゃな……カミさんになんて言おう」

 

肩を落とす同僚の柿崎さん(仮名・53歳)に、沢田さんは「会社都合退職だから失業保険もすぐ出るし、焦らずやっていこう」と励ますしかありませんでした。

 

厚生労働省『労働条件に関する総合サイト』によると、沢田さんのような「会社都合退職」の場合、失業給付金は7日間の待機期間後に支給されます。一方、「自己都合退職」の場合には7日間の待機期間のあとに1か月の給付制限期間が発生します。つまり、自己都合退職の場合よりも1か月早く給付金が受け取れるのです。

 

また、厚生労働省「基本手当の所定給付日数」によると、沢田さんは54歳で被保険者期間が20年以上あるため、基本手当の所定給付日数は330日です。同じく被保険者期間が20年以上ある53歳の柿崎さんも、沢田さんと同じ条件に当てはまります。

出典:厚生労働省「基本手当の所定給付日数(1.特定受給資格者及び一部の特定理由離職者)」
 

「うちの親父が同じことになったら辛すぎて泣く」若手社員の同情

仕事に戻っても集中できず、沢田さんは社内の休憩スペースに立ち寄ることにしました。すると、新卒で入社してきた若手社員の話し声が聞こえてきます。
 

「同じチームの50代のおじさんがリストラされたらしい。さっきめちゃくちゃ落ち込んで会議室から帰ってきた」

 

「え? あの人の子どもってまだ中学生じゃなかったっけ。これからどうすんの?」


「わかんない。うちの親父が同じことになったら俺、辛すぎて泣くと思うわ」

 

どうやら、若手社員たちは柿崎さんのことを話しているようでした。直接自分のことを言われたわけではないものの、「辛すぎて泣く」と言われる状況は沢田さんにも当てはまります。いたたまれない気持ちになり、沢田さんは自席へと引き返しました。

 

若手社員の言うように、50代半ばで役職のない人は一部で偏った見方をされてしまうことがあるのでしょう。しかし、沢田さんの胸には静かな覚悟が芽生えつつありました。

 

「管理職にはなれなかったけど、14年間、決して手を抜いて働いてきたわけじゃない」

 

沢田さんは品質保証部の現場で、長年にわたり品質管理の第一線に立ち続けていました。回路図とテスターを手にトラブルの原因を突き止める技術。不具合が起きたときに取引先や外注先の人たちと膝を突き合わせて問題を解決してきた交渉力――。管理職の経験こそないものの、これらはすべて沢田さんが14年間で磨き上げてきたスキルです。