(※写真はイメージです/PIXTA)
土産話の最中、娘からの一言
夢のような1.5ヵ月間を終えて帰国した直後、孫を連れて実家に泊まりにやってきた長女のミヤコさん(41歳)は、大量の写真や動画を見ながら「すごーい! まるで映画の世界だね」「私も行ってみたいなあ!」と、笑顔で一緒になって喜んでくれていました。
共働きで二人の子どもを育てながら、上がる一方の物価や社会保険料、住宅ローンや塾代のやりくりに追われるミヤコさん。目玉焼きの上にスライスチーズをのせた食パンを朝食に出しながらナギサさんが「やっぱりスイスのチーズとパリのパンは美味しかったわね」と当時の思い出を口にしたときでした。
ミヤコさんは最初は「そうだね」と微笑んだものの、手元のスマートフォンで家計簿アプリや学校の集金画面を見つめるうちに、少しずつ表情が暗く曇っていきました。そして、ふっと視線を落としたまま小さな溜息をついたのです。
「……いいよね、お父さんたちの世代は。退職金もちゃんともらえて、年金もあって、そんな贅沢な旅行ができるんだもん。羨ましいよ」
責めるような強い口調ではありませんでした。だからこそ、そこに込められた疲労と諦め、そして深い切なさが、タツノリさんの胸に重く突き刺さりました。
「もちろんお父さんとお母さんが頑張ってきたからだけどさ。私たちの世代なんて、夫婦で必死に働いても毎月ギリギリ。自分たちが60代になったとき、退職金なんて期待できないし、年金もどうなるか……。ファーストクラスどころか、家族で海外旅行に行く余裕なんて一生ないなって思っちゃう」
力なく笑う長女の顔を見つめながら、タツノリさんの心の中に、徐々に罪悪感が押し寄せてきました。
「自分たちが楽しむためだけに、あんな大金を使ってしまって本当によかったのだろうか」
残った資産で自分たちの老後は賄える計算でした。しかし、目の前で生活の重圧に押し潰されそうになっている娘の姿を見たとき、1,100万円という金額の重みがまったく別の意味を持って襲いかかってきたのです。
「あの1,100万円があれば、娘たちに生前贈与をしてあげられたのではないか。孫たちの将来の教育資金として渡してあげていたら、どれほど娘の肩の荷を軽くしてやれただろう」
「俺たちは、自分たちの欲のために贅沢をしすぎてしまったのではないか」
親世代と子世代の世代格差
高度経済成長期やバブル期をベースにした雇用環境で退職金や公的年金を受け取れるシニア世代と、長引く経済の停滞や負担増のなかで子育てをする現役世代とのあいだには、将来に対する安心感に大きな開きがあります。総務省の「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年平均結果」によると、現役層である40代世帯の平均貯蓄額は1,381万円であるのに対し、住宅ローンなどの負債額は平均1,483万円にのぼり、純貯蓄額はマイナス102万円と負債超過の状態にあります。物価高や社会保険料の増加、子どもの教育費などに追われ、将来の退職金や年金に対する強い不安を抱えながら毎月のやりくりを行っているのが実情です。
老後資金を「自分のため」と「子世代のため」でどうバランスを取り、互いに健やかな関係を保つべきか、ポイントを整理します。
「自分の人生を楽しむこと」に対する不必要な罪悪感を抱かない
長年勤め上げて得た退職金や預金は、親自身が努力して築いた資産であり、当然ながら自分たちのために使う権利があります。子世代への支援ができなかったことに過度な罪悪感を覚える必要はないでしょう。親が自立して経済的に完結し、将来子どもに介護や資金面の負担をかけないこと自体が、最大の「子世代への貢献」でもあります。
子世代の状況に配慮した「思い出の共有」のバランス
親にとっての「最高の思い出」であっても、日々のやりくりで心に余裕がない時期の子世代にとっては、眩しすぎて素直に喜べない瞬間があります。大額の支出を伴う贅沢の話は、相手の生活状況や心理的余裕に配慮した姿勢も時には必要かもしれません。
生前贈与や援助を考える際の「優先順位」の整理
もし「子や孫のためにお金を使いたかった」と後悔が生じる場合は、いまからでも無理のない範囲で制度(特例贈与や暦年課税の活用など)を調べるのも一つの選択肢です。ただし、親自身の老後資金(医療や介護費用など)を脅かしてまで援助を行ってしまうと、将来的にかえって子どもに負担をかける本末転倒な結果になりかねません。自分の老後の安泰を最優先にしたうえで、余力の範囲内で計画を立てることが重要です。
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