お盆の帰省は家族の絆を深める機会ですが、思わぬ言葉や行動から決定的な亀裂が生まれることもあります。老後の安心のために蓄えた資産を巡り、親と子の間で生じる「お金」に対する意識のズレとは。ある家族の事例を通し、世代間で生じる衝突の背景と防ぐためのポイントを考えます。
「もう帰ってくるなと言いました」…〈年金月17万円〉79歳母、お盆帰省後の51歳長男に「絶縁宣言」のワケ ※写真はイメージです/PIXTA

お盆に帰ってきた長男の不審な行動

「母さん、通帳ってどこに置いてる?」

 

お盆休みが終わった翌日、佐々木洋子さん(仮名・79歳)は、長男・佐々木浩一さん(仮名・51歳)から言われた言葉を思い返していました。

 

浩一さんは東京都内で会社員をしています。年収は約720万円。妻と大学生の長女との3人暮らしです。

 

一方、洋子さんは地方都市で一人暮らし。夫は6年前に亡くなりました。月17万円(手取り15万円強)の年金を受け取り、持ち家で生活しています。毎月の支出は13万円ほどで、年金だけで十分に生活できています。大きな借金はなく、預貯金は約4,600万円。自宅の評価額は約1,500万円です。

 

金融経済教育推進機構の『家計の金融行動に関する世論調査(2025年・単身世帯調査)』によると、金融資産を保有する70代単身世帯の平均保有額は1,877万円、中央値は900万円となっています。洋子さんの預貯金4,600万円は同世代の平均を大幅に上回るゆとりのある資産状況といえます。

 

それだけの資産を築けたのは長年の共働きに加え、徹底してきたライフスタイルに理由がありました。

 

「共働きだったので、余裕のあるほうだと思っています。ただ贅沢はしていません。老後に困らないよう質素倹約を心がけてきました」

 

今回の帰省も、最初はいつもと変わりませんでした。浩一さんは「暑いな」と言いながら昼過ぎに到着。翌日には一緒に墓参りをしました。ところが、その日の夕方から様子が変わったといいます。

 

「母さん、お金って、全部でいくらあるの?」

 

洋子さんは「急にどうしたの」と聞き返しました。すると浩一さんは、「いや、いざというとき困るだろ」と答えました。その後も質問は続きました。

 

「通帳は何冊ある?」

「定期預金もある?」

「家の権利書は?」

 

さらに、「遺言書は作ってるの?」とまで聞かれたそうです。洋子さんは、その時点ではまだ、親のことを心配しているのだと思っていました。

 

しかし、翌朝、浩一さんが家の中を探しているところを見てしまいます。

 

「何を探しているの?」

 

そう聞くと、浩一さんは少し間を置いて、「書類」と答えました。洋子さんが確認すると、和室の押し入れに入れていた古い書類の束が動かされていました。通帳そのものは見つかりませんでしたが、銀行から届いた書類や固定資産税の通知書などが入った封筒が出されていました。

 

「勝手に見たの?」

 

洋子さんの問いに、浩一さんはこう返しました。

 

「だって、俺が相続するんだから、確認しておいたっていいだろ」

 

その一言で、洋子さんの気持ちは変わりました。