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たった一晩で変わった認識
しかし今回、母が閉じ込められたのは午前0時50分ごろ。トイレに入った際、ドアノブが空回り。何度回しても開きません。ガチャガチャとやっているうちに、ドアノブそのものが外れてしまい、万事休す。大声を出しても、近所に聞こえる距離ではありません。幸い、母はズボンのポケットに携帯電話を入れていました。それで事なきを得たのです。
話を聞くと、だいぶ前からトイレのドアノブは壊れかけていたといいます。しかし「住まいにお金をかけること」を極端に嫌がる洋子さん。まだ何とかなると、修理を先延ばしにしていたのです。
「もし、携帯電話を持っていなかったらどうしたの」
「もし、真夏だったら? 熱中症になって死んでいたかもしれないよ」
いつも以上に危機感をあおる大輔さん。さすがに洋子さんも反論できなかったといいます。翌週、大輔さんは業者に相談し、トイレのドアノブを交換。廊下の照明も明るいものに替えました。浴室には手すりを設置し、玄関にも簡易的な手すりを付けることにしました。
費用は約18万円。洋子さんの預金から出すことになりました。
大規模なリフォームではありません。それでも洋子さんは、やっぱり渋い顔をしていたといいます。
「こんなところにお金を使うなんて……」
そう言いながらも、最後にはこう付け加えました。
「でも、いつまで生きるかわからないし。今の快適を買うのも、悪くないわよね」
自分に言い聞かせているようだったといいます。
内閣府『高齢社会に関する意識調査(高齢期の住み替えについて)』によると、持ち家に住む高齢者の74.2%が「住み替えの意向はない」と回答し、洋子さんのように「住み慣れた我が家に住み続けたい」と望む人が大半です。しかし、その一方で「健康や体力面の不安(24.8%)」や「住宅の住みづらさ(18.9%)」を実感する高齢者は少なくありません。
自宅への愛着や満足度が高いからこそ、加齢による身体機能の低下や住宅の老朽化によるリスクは見落とされがちです。住み慣れた家で長く安全に暮らし続けるためには、手すりの設置や建具の修繕など、変化に合わせた「今への投資(部分改修)」を先延ばしにしないことが、在宅生活の安心を守る第一歩となります。