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真夜中のSOS、思いもよらぬ理由
「助けて、ここから出して!」
午前1時過ぎ、54歳の長男・斎藤大輔さん(仮名)の携帯電話に、80歳の母・洋子さん(仮名)から電話がかかってきました。悲痛な叫びに、状況など大して聞かずに、大輔さんは車を走らせました。
自宅から実家までは車で約30分。大輔さんが駆け付け、合鍵で玄関を開けます。薄暗い廊下の先で、洋子さんが呼ぶ声が聞こえます。助けを求める声は、廊下の先にあるトイレからでした。ドア内側のドアノブが外れ、洋子さんはドアを開けられない状態にあったのです。幸い携帯電話を手にしていたため、助けを求めることができました。
「なんだ、こんなことか」
思わず声をもらした大輔さん。「こんなこととはどういうことだ。一生出られないと思って焦った」と洋子さんは憤慨の様子だったといいます。
内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、65歳以上の一人暮らしは増加傾向にあります。高齢者人口に占める一人暮らしの割合は、昭和55(1980)年には男性4.3%、女性11.2%でしたが、令和2(2020)年には男性15.0%、女性22.1%(実数は男女計で約672万人)に急増しました。さらに令和32(2050)年の将来推計では、男性26.1%、女性29.3%(同、約1,084万人)に達すると見込まれています。
かつて半数を占めた三世代世帯は激減し、今や高齢世帯の約3割が単独世帯。単身高齢者が安全に暮らせる住環境の確保が急務となっていますが、当の本人には「自分はまだ一人で大丈夫」という意識があり、自宅の危険性を放置しがちです。
洋子さんも、これまで「一人で暮らせる」と言い続けてきました。しかし今回の一件で、大輔さんは考えざるを得なくなりました。「母にとって、本当に今の家が住みやすい家なのだろうか」と。
洋子さんは80歳。夫を10年前に亡くしてから、築45年の戸建て住宅で一人暮らしを続けています。毎月の収入は、遺族年金などを含めて約16万円。固定資産税などを見据えて、年金から月2万円を貯蓄に回し、余った金額で生活費のすべてを賄っています。
預金は1,000万円近くあり、お金の不安は少ないほうでした。だからといって、生活に余裕があるわけではありません。
以前から大輔さんは、母に「一人暮らしは、危険じゃないか?」と伝えてきました。すると洋子さんは決まって「80歳だからって、何でもできないと思わないで」「施設に入るほど弱ってない」と怒り気味に反論します。
一人暮らしを続けるにしても、家が古すぎます。築45年。比較的大きなリフォームをしたのは、さかのぼること30年前のこと。しかし、高齢者が一人暮らしするには階段は急すぎるし、あちらこちらに段差があります。
「せめて、トイレとか、水回りくらい直したら?」
そう言ったことももあります。
「あと何年ここに住めるかわからないのに、何百万円もかけるなんてもったいない」
母の返事は、いつも同じだったのです。