物価高が続く現代、子どもに心配をかけまいと困窮や本音を隠してしまう高齢者は少なくありません。親の尊厳を損なわずに、子としてどう寄り添い支援すべきか――ある親子の事例から考えます。
「大丈夫、お金は十分ある」…〈年金月8万円・75歳母〉、週1の電話で〈48歳長男〉に本音を隠したワケ ※写真はイメージです/PIXTA

親の「大丈夫」に隠された本音

さらに電話の内容は少しずつ変わっていきます。

 

「病院、今月は行った?」

「うん。でも薬がまだ残ってるから、次は来月でいいかなって」

「薬って、そんなに余るもの?」

「ほら、前にもらった分があるから」

 

健一さんは「母は医療費を抑えるために、通院のタイミングまで遅らせようとしているのではないか」と疑念を持ちます。

 

「お金送ろうか? 月3万円くらいなら、俺から出せるよ」

 

すると、和子さんの声が強くなりました。

 

「いらない。子どもの世話になるほど困ってないから」

 

健一さんは引き下がりました。しかし、その翌週も母は「食費が高い」「電気代が上がった」と話します。お金がダメなら、お米など、モノを送ろうかと提案しましたが、やはり和子さんは「子どもの世話になるほど困ってない」と即答。援助されることそのものを拒んでいたのです。

 

和子さんがここまで拒むのには理由がありました。夫が亡くなった後も、長く家計を支えてきたのは自分だという自負があります。息子には迷惑をかけたくない。それ以上に、「自分はもう一人では生活できない」と認めることが嫌だったといいます。

 

「お金をもらったら、次から何でも頼らないといけなくなるでしょ」

 

母親が困っているなら助けたい。しかし、正面から「生活費を援助する」と言えば、母親の尊厳を傷つけるかもしれない。そこで健一さんは、援助の形を変えることにしました。

 

まず、母親に家計を見せてもらうことにしました。自身も老後のことを考える年齢。参考にしたいと申し出たのです。そう伝えると、和子さんは通帳と家計簿を見せてくれました。預金残高は約92万円。健一さんが想像していたより、かなり少ない金額でした。さらに、冷蔵庫は15年以上使っており、エアコンも古くなっています。

 

「母さん、これで『お金は十分ある』は無理があるよ」

 

思わずそう言うと、和子さんは黙りました。しばらくして、「……あなたに心配されたくなかったのよ」と小さな声で答えたそうです。それが本音でした。

 

母親の本音を確認したあと、健一さんは家の修理に向けて話を進めていきました。最初、和子さんは反発したものの、健一さんは「このままだと住めなくなる。いつか帰ってくるかもしれないのに、それだと困るから」と、あくまで自分の都合で実家を直すのだと言い張りました。

 

さらにネット通販で、品物を送るようにしました。これも最初、和子さんは「いらない」と言いましたが、「自分が買うものを分けているだけ。まとめ買いしたほうが、結果安いんだよ」と説得を続けました。

 

そんなやり取りが続いた結果、まだ渋々……という雰囲気は残るものの、健一さんからの支援を受け入れるようになったといいます。

 

国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査(2022年)』によると、「高齢者への経済的援助は、公的機関より家族が行うべきだ」という考え方に賛成する割合は20.6%と低下傾向が続いています。これは「子どもに迷惑をかけたくない、自立していたい」という親世代の強い自負の表れといえるでしょう。

 

高齢の親と良好な関係を築きながら支えるには、正面から生活費を援助するのではなく、実家の修繕や日用品の差し入れなど、親が拒みきれない「理由や形」に変えて支援を行う工夫もひとつの手。親の「大丈夫」の裏にある本音に寄り添い、その尊厳を傷つけないよう緩やかに介入していく心配りが、お互いの絆をより深めていく鍵となりそうです。