内閣府の『令和7年版高齢社会白書』によると、60歳以上の1か月当たりの生活費は「20万円~25万円未満」が最も多く、中央値は20万円です。年金や限られた貯蓄で暮らす高齢者にとって、子や孫の帰省はうれしい一方、食費や外食費、寝具の準備など金銭面・体力面の負担にもなりかねません。そんななか、年金月20万円で暮らす73歳のサトさん夫婦は、ある理由から息子一家の帰省を遠慮していました。事例を見ていきましょう。
うちは大したことをしてあげられないから。〈年金月20万円〉73歳母が気にしていた「嫁実家との格差」…お盆に帰省した〈44歳息子〉からの言葉に涙したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

年金月20万円で暮らす夫婦

サトさん(73歳・仮名)は、夫と2人暮らし。夫婦合わせた年金は月20万円ほどで、貯蓄は1,000万円あるかないか。派手な暮らしはせず、老後のお金を意識しながら堅実に生活しています。

 

一人息子は44歳。東京で同い年の妻と、今年小学校に入学したばかりの娘の3人で暮らしています。

 

サトさんにとって、孫はもちろんかわいい存在です。帰省してくれればうれしい。しかし、最近は同世代の友人から、こんな話を聞くことが増えていました。

 

「孫が来るのはうれしいんだけどね。食事代も外食代も全部こっち持ち。布団を出して、ご飯を作って、帰ったら洗濯でしょう。数日泊まられると、次の日は寝込んじゃうのよ」

 

別の友人からは、「あなたのところは息子さんたちがあまり泊まりに来ないでしょう。正直、ちょっとうらやましい」と言われたこともあります。

 

サトさん自身は少し寂しさを感じながらも、「まあ、そんなものなのかな」と思っていました。

 

子どもや孫に会えるのはうれしい。それでも70代ともなれば、何日も家族を迎えるにはお金だけでなく体力も必要です。

 

そしてサトさんが自分から「帰ってきて」と言えなかったのには、もう一つ理由がありました。

どこかで気にしていた「実家格差」

息子の妻も、地域は違うもののサトさん一家と同じ県の出身です。ただ、妻の実家と自分たちの家には、サトさんがひそかに感じている「差」がありました。

 

妻の父親は住宅メーカーに長年勤務し、工場長も経験した、いわゆる昭和のサラリーマン。単身赴任期間も長かったと聞いています。母親も小学校教員として働いていました。

 

詳しい年金額や資産額を聞いたことはありません。それでも息子から伝え聞く生活ぶりからすると、老後にはかなり余裕があるように感じられました。

 

一方のサトさんは、もともと体が丈夫ではなく、若いころから継続して働くことが難しかったといいます。夫が働いて家計を支え、サトさんはやりくりしながら息子を育てました。現在の年金は夫婦で月20万円ほど。貯蓄も1,000万円に届くかどうかです。

 

「向こうのお父さまとお母さまは2人ともずっと働いてこられた方ですから。比べても仕方ないんですけどね。向こうのおうちのほうが余裕があるし、息子たちも気楽なんじゃないかと思っていました」

 

だから今年のお盆も、息子一家は妻の実家で過ごすのだろうと思っていました。

 

孫には会いたい。

 

それでも、わざわざこちらから「うちにも泊まって」と声をかけることはしませんでした。

 

友人たちの話を聞けば、帰省を迎える側も大変そうです。それなら、無理に呼ばず、お互い少し物足りないくらいがちょうどいいのかもしれない――。

 

そんなふうに自分を納得させてもいました。

「1日早く行ってもいい?」息子からの電話

お盆を前に、息子から電話がありました。

 

「今年も向こうの実家に泊まるんだけど、そのあと帰る途中でそっちにも寄っていい? 日帰りになると思うけど」

 

「もちろんよ」

 

サトさんはすぐに答えました。顔を見られるだけで十分です。ところが、帰省予定日の2日前。再び息子から連絡が入りました。

 

「予定を1日早めて、そっちに泊まってもいい?」

 

思いがけない申し出でした。

 

ただし、息子は続けてこう念を押しました。

 

「食事とか、何も準備しなくていいからね。俺たちで買っていくから」

 

そう言われても、久しぶりの帰省です。

 

サトさんは「何もしないわけにはいかない」と、息子が子どものころ好きだったコロッケを揚げました。

 

当日、息子一家は寿司やフルーツ、翌朝に食べるパンまで抱えてやってきました。

 

「こんなに買ってこなくてもいいのに。うちに来るのに、そんなに気を使わなくていいのよ」

 

そう言うと、息子の妻が事情を話し始めました。

妻の実家で目にした「疲れ切った両親」

妻には兄がおり、今年のお盆はちょうど兄一家も実家に帰省していました。ところが、兄一家は実家に来ると、食事の準備も片付けもほとんど両親任せ。子どもたちの世話もあり、両親は朝から晩まで動き回っていたといいます。

 

「兄たちに悪気があるわけではないと思うんです。昔から帰省するとそういう感じだったので。でも、両親も年を取りましたから。楽しそうにはしているんですけど、明らかに疲れていて……見かねて私たちもお世話を手伝うことになりました。兄の子供たち、やんちゃでついに叱りつけちゃいました」

 

夜になると、妻の両親はぐったり。その姿を見て、息子夫婦は話し合ったそうです。

 

「これはひどいね。お母さんたちを休ませてあげたいから、私たちも早めに帰ろう」

 

そこで予定を変更し、妻の実家への滞在を1日短くして、サトさん宅に泊まることにしたのでした。

 

「なので、お父さんとお母さんには何もしなくていいようにします。布団も私が準備しますから」

 

妻はそう言って、自分たちで布団を敷き始めました。

 

サトさんは、少し拍子抜けしました。てっきり、妻の実家で至れり尽くせりの帰省を楽しんでいるものだと思っていたからです。そして、思わず本音が口からこぼれました。