遠く離れて暮らす高齢の親への支援は大きな負担です。一方で、支援を受けているはずの親は、そもそも支援を受けている自覚がなかったり、「自立している」と言い張ったり――。ある家族の事例から、遠距離支援の実態と、呼び寄せの課題について考えていきます。
「絶対にこの家を離れない!」年金月15万円・頑固な82歳父が折れた…55歳義娘が突きつけた「衝撃の数字」の正体 ※写真はイメージです/PIXTA

「絶対にこの家を離れない」頑固な義父

東北地方在住の佐々木勝男さん(82歳・仮名)。5年前に妻を亡くして以来、築50年の一戸建てに一人暮らしを続けています。収入は年金月15万円のみ。貯蓄額は800万円ほどありますが、決して生活が楽なわけではありません。しかし「地方のほうがお金がかからない」というのも、自宅にこだわり続ける理由のひとつです。

 

「高齢者の一人暮らしは大変」と心配する長男の妻である由紀さん(55歳・仮名)は、月に1・2回、新幹線を使って東京から義実家へ通っていました。しかし、片道3時間の往復交通費は1回あたり約3万円です。夫婦の家計から毎月3万円から6万円の出費が積み重なっていました。

 

由紀さんの夫である佐々木健一さん(57歳・仮名)は都内の会社員で、手取り月収は38万円ほど。自宅の住宅ローンが毎月12万円残り、大学に通う息子の学費負担も続いています。

 

国立社会保障・人口問題研究所『第9回世帯動態調査(2024年)』によると、80〜84歳男性で子と同居している割合は35.2%にとどまり、健康なうちは同居を回避し自立を志向する傾向が示されています。しかし、別居での一人暮らしは突発的な事態への不安を伴います。

 

一方で『第7回全国家庭動向調査(2022年)』では、老親との同居(「子ども夫婦と一緒に暮らすべきだ」)に賛成する有配偶女性は23.9%とわずかです。自立して暮らしたい親の意向と同居に慎重な子世代の意識が一致する一方で、今回のように遠方からの急な看病や日頃の見守り負担(新幹線通いなど)を妻側が抱え込まざるを得ない葛藤が浮き彫りとなっています。

 

事態が動いたのは昨年の冬。東北地方を猛烈な寒波が襲いました。勝男さんが自宅内でヒートショックを起こして倒れ、緊急搬送されたのです。幸い後遺症もなく数日で退院できましたが、由紀さんは慌てて東京から駆けつけることになりました。

 

「もし一人でいるときに倒れて発見が遅れたらどうするんですか? もう一人暮らしは無理ですよ」

 

由紀さんは東京への呼び寄せを提案しました。しかし、勝男さんは頑なに拒否しました。頭がしっかりしている分、プライドも非常に高かったのです。

 

「自分のお金でやりくりして、誰の手も借りずに暮らしているんだ。東京なんぞに行ったら、それこそ病気になる」
一方、夫の健一さんは主体性を見せませんでした。「親父は頭もはっきりしているし、本人が嫌がっているなら無理強いはできない」と静観する構えでした。

 

このときの苛立ちを、由紀さんは振り返ります。

 

「夫は仕事を理由に何もしません。もし義父が一人で倒れて長期入院になったら、会社を休んで手続きや看病をするのは全部私です。他人の親のために自分の人生や時間を差し出すのは、もう耐えられませんでした」