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「どうせすぐ死ぬのだから」二次相続を口実にした義弟の暴言
直樹さんは「そんな安直に分けると後悔する」と切り出します。今回、きっと相続税はかからない。しかし和子さんが多く相続したら、次の二次相続で哲也さんや恵美さんが高い税金を払うことになって大損する可能性がある――そう声高らかに訴えたのです。
さらに家族全員が唖然としたのは、この後に続いた言葉でした。
「お義母さんは今年で73歳ですよね。そんなにお金をもらっても使い道がないでしょう。実家の特例だけ使って、現金は子ども世代に回すべきです」
「どうせすぐ死ぬのだから金を持たせるのは無駄だ」という物言いに、恵美さんの堪忍袋の緒が切れました。
「ちょっと! そんな失礼なこと言うなんて、今すぐ出て行って!」
直樹さんは廊下に押し出されましたが、ぽかんとした顔で自分の非を理解していませんでした。
直樹さんが主張した「小規模宅地等の特例」は、同居していた配偶者などが自宅土地を相続した際、評価額を80%減額できる制度です。知識自体は間違いではありません。しかし問題は、法定相続人ではない直樹さんが、身勝手といえる本音で協議をかき乱した点にあります。
暴言事件の後、哲也さんと恵美さんは直樹さんを完全に協議から締め出しました。法律上、協議に参加できるのは法定相続人のみ。残された家族は税務署や公的機関のアドバイスを受けながら、適切な分割手続きを進めました。
相続税とは、亡くなった方の財産を継承した個人に課される税金のことです。通常の遺産相続に限らず、遺言によって引き継いだ資産(遺贈)や、相続時精算課税制度を利用して生前に入手した財産も課税対象に含まれます。課税されるかどうかは、これらの資産評価額の総額から借入金などの負債を差し引き、生前贈与された財産(一定期間内)を加えた正味の額で判断します。この金額が非課税枠である「基礎控除額」を超えた場合に限り、その超過部分(課税遺産総額)に対して税金が課されます。
相続税は、遺産額から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引いた残額を、各相続人の法定相続分に応じて分割し、その金額(課税遺産額)に所定の税率をかけて算出されます。たとえば、2億2,000万円の遺産があり、相続人が配偶者と子ども4人(計5人)の場合、基礎控除額(3,000万円+600万円×5人=6,000万円)を差し引いた課税対象額は1億6,000万円。これを法定相続分(配偶者1/2、子ども各自1/8)に従って分割すると、各人の課税遺産額は、配偶者が8,000万円、子ども4人はそれぞれ2,000万円になります。
なお、配偶者には「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」制度があります。配偶者が実際に取得した正味の遺産額が、「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のどちらか多い金額までであれば、配偶者に相続税はかかりません。ただし、この制度を適用するには、期限内に税務署へ確定申告を行う必要があります。
結局、母の和子さんには配偶者の非課税枠の範囲内で実家と一定の現金を残しました。そして子どもたちにもバランスよく分配することで、二次相続の負担を抑えつつ、一族全体の納税額を最小限に抑える形で申告を終えたそうです。
手続き上の問題は無事に解決しましたが、家族に残った傷痕は深く残っています。
恵美さんは直樹さんへの不信感が募ったままです。和子さんも「自分のせいで娘の家庭が気まずいのではないか」と自責の念に駆られています。節税という正論の裏に隠された身勝手な欲望は、どれほどのお金でも穴埋めできない深い亀裂を家族に残したのです。