極端な節約思考からお金に固執し続けた結果、家族との関係を壊してしまう――十分な資産がありながら、なぜ人は金銭への執着を手放せず孤独へ向かうのでしょうか。ある父娘の葛藤から、老後資金に対する不安の本質と、良好な家族関係を両立させるためのヒントを考えます。
「墓場までお金を持っていけばいい…」週1で実家通いの48歳ひとり娘、〈年金月18万円・お金に執着する75歳父〉を見捨てた日 ※写真はイメージです/PIXTA

絶望の果てに選んだ断絶

由美さんは見かねて、週に一度は実家に通い、作り置きの料理を届けたり掃除をしたりして父を支えようとしました。しかし、正雄さんから返ってくるのは感謝の言葉ではなく、金銭に対する不満ばかりでした。

 

ある夜、実家を訪れた由美さんは、正雄さんが体調を崩して床に伏しているのを見つけました。室温は35度を超えています。熱中症の危険を感じた由美さんは、すぐにエアコンをつけるよう勧めました。

 

そのとき、正雄さんが放った言葉が由美さんの限界を超えました。

 

「電気代がかかるだろ。お前が金を出してくれるのか? 出さないなら余計な口を挟むな。私は死ぬまで1円も損をしたくないんだ」

 

由美さんは静かに立ち上がりました。母が死ぬまで耐え続けた理由、そして自分が注いできた愛情がすべて無駄だったことを悟った瞬間でした。

 

「お父さん、そんなにお金が大事なら、墓場までお金を持っていけばいいよ」

 

由美さんはそう言い残し、実家の鍵を玄関のテーブルに置いて飛び出しました。それ以来、由美さんから正雄さんに連絡することはなくなりました。

 

国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査』によると、「年老いた親の介護は家族が担うべきだ」への賛成割合は、2008年の63.3%から2022年には38.9%へと大幅に低下しました。また、「高齢者への経済的援助は公的機関より家族が行うべきだ」への賛成も20.6%に留まります。

 

先行き不透明な時代背景から「老後資金が底を突く恐怖」にとらわれ、極端にお金を使うこと自体に嫌悪感を抱いてしまう高齢者が多いのも無理はありません。しかし、資産を守るあまり周囲の愛情や自身の健康、果ては家族との絆まで削ぎ落としてしまっては本末転倒です。お金は人生を豊かにするための手段であり、それ自体を目的にしてしまえば、残るのは通帳の数字と孤独な最期だけなのかもしれません。