内閣府の『令和7年版高齢社会白書』によると、シニア世代が生活費などの「収入不足」に直面した際、これから取る対応策として、54.3%が「節約等により支出を減らす」と回答し、40.2%が「貯蓄を取り崩している」のが現状です。60代前半で思うような老後資金形成が叶わなかった場合、どのような対応をしていけばいいのでしょうか。老後に夫婦で納得できるバランスを探るためのマネープランについて、ある夫婦の事例を通して見ていきましょう。※事例の人物名はすべて仮名です。
「本当に、本当に温泉旅行すらウチは行けないの…?」年金20万円の東京に住む60歳夫婦、妻が夫の退職日に号泣。いまさら知った〈絶望的・老後資金の額〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

将来に怯える夫と、崩れ落ちた妻

資金がじわじわと目減りしていく恐怖に加え、ショウジさんには身体的な不安も重なっていました。長年のデスクワークで痛めていた腰痛がこのところ急激に悪化し、思うようにアルバイトのシフトに入れなくなっていたのです。

 

「もし腰が悪化してバイトをクビになったらどうしよう」「早々に介護が必要になったら、一体いくらかかるんだ……」

 

ショウジさんは日々、老後破綻と介護不安に怯えていました。そんな夫を気遣いながらも、フミノさんは「これまで2人で頑張ってきたのだから、記念に草津温泉へ行って羽を伸ばしたい」と話したところ――。将来への不安で押し潰されそうなショウジさんに、その願いを受け入れる余裕はありません。

 

「世間では『老後2,000万円問題』なんていわれていたのに、ウチは1,300万円しかないんだぞ。65歳までの生活費で減るし、これから病気や介護でなにがあるかわからないんだから、旅行なんて贅沢できるわけがないだろう。いま夫婦で病気もせず健康でいられるだけで十分じゃないか。これ以上、一体なにを求めるんだ?」

 

夫の言葉に、フミノさんは思わず泣き出してしまいました。

 

「海外旅行に行きたいっていっているんじゃないのに……。本当に、本当にウチは草津温泉すら行けないの?」

 

むしゃらに働き、ローンを完済して支え合ってきた結末が、少し遠出する程度の温泉旅行すら許されない状況であるという現実に、フミノさんの涙は止まりませんでした。

定年後の無年金期間を踏まえた、本当に必要な老後資金の額

草津温泉旅行にかかる費用は、やりくり次第で数万円程度に収まるものです。日々のちょっとした節約や予算の工夫があれば十分に叶えられるはずの「ほんの小さな喜び」でしょう。

 

しかし、将来への漠然とした恐怖や減収の不安に支配されてしまうと、そうしたささやかな楽しみや節目の思い出作りすら罪悪感やリスクに思え、叶えることができなくなってしまいます。お金を守ることに必死になるあまり、夫婦の心の潤いまで削ぎ落としてしまう状況は、決して望んでいた老後の姿とはいえないでしょう。

 

数万円単位の出費であれば、日々の生活費の微調整や工夫でカバーすることは十分に可能です。「なにが起こるかわからないから一切使わない」という過剰な防衛反応は、夫婦間の溝を深め、これまでの苦労を虚しくさせてしまいます。不安なときこそ、人生の潤いとなる小さな楽しみを計画的に組み込む柔軟性が求められます。

 

60歳から65歳までの収入減少期において、「いくらまでなら取り崩していいのか」「旅費や予備費に回せる予算はいくらあるのか」を具体的に数値化しておくことが重要です。数字として上限を把握できれば、「この数万円なら使っても問題ない」という客観的な安心感を得ることができます。

 

健康リスクや介護リスクに備えて防御を固めることは大切ですが、健康な「いま」を犠牲にし続けては本末転倒です。「健康でいられること」に感謝しつつ、将来への備えと「二人でいまを楽しむための予算」をセットで話し合い、納得できるバランスを夫婦で探っていく姿勢も欠かせません。

 

ショウジさんのいうように、「健康でいられること」は老後最大の資産ですが、夫婦の心の健康と絆を保つためには、感情論ではなく具体的なマネープランに基づいた現実的なすり合わせが求められます。

 

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