資産形成を果たし、理想の「一生働かない生活」を手に入れたはずの男性。しかしFIRE達成から半年後、手元に届いた「1通の通知」をきっかけに事態は一変します。男性の事例から、FIREにより失うものについて見ていきます。
「“一生働かない”というのが、夢だったんです」〈資産1億円突破でFIREの45歳独身男性〉、半年後に仕事復帰を決意した「1通の通知」 ※写真はイメージです/PIXTA

思わぬ壁が続き…下した決断

カードだけでは終わりませんでした。賃貸マンションの更新時、不動産会社から収入証明の提出を求められました。前年の源泉徴収票はあります。しかし現在の収入はありません。

 

「投資収益があります」

 

そう説明しても、担当者の反応は鈍かったそうです。

 

「最終的には更新できました。でも保証会社から追加書類を求められました。会社員だった頃には一度もなかったことです」

 

さらに住宅ローンを利用した投資用不動産の購入も検討しました。しかし金融機関から返ってきた答えは厳しいものでした。

 

「資産は十分ですが、安定収入が確認できません」

 

資産1億円という数字より、「現在の給与」が優先されたのです。

 

「会社員だった頃は、収入があることを当たり前だと思っていました。でも辞めた瞬間、それまで持っていた信用まで一緒になくなるとは考えていませんでした」

 

その後、中村さんは知人の紹介でIT企業の業務委託を引き受けました。週3日勤務。月収は約35万円。生活費を十分に賄える額ですが、働く目的はお金ではありませんでした。

 

「資産は減っていません。むしろさらに増えていきます。でも、社会的信用がないことを突きつけられ、社会との接点を完全になくすことにリスクがあると感じたんです」

 

金融経済教育推進機構『家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査](2025年)』によると、単身世帯の人が「経済的な豊かさ」を実感する条件は「ある程度の額の金融資産の保有」が49.5%で最多でした。一方で「心の豊かさ」を実感する条件は、「経済的な豊かさ」の45.1%を上回り「健康」(53.7%)が最も高く、さらに「趣味の充実」(30.1%)や「時間的な余裕」(29.1%)が続きます。

 

資産を築いて経済的自立を得ても、ただ仕事を辞めるだけでは真の幸福感や心の豊かさにはつながりにくいのが実情。中村さんが自由を得た上で再び社会との接点を求めて働き始めた選択は、非常に合理的であるといえます。

 

「FIREは、経済的自立と早期リタイアを目指すものですが、私にとって“仕事をしないこと”はゴールではありませんでした。何にも左右されない働き方を決められる。そんな自由を手に入れることが、私にとっては価値のあることだったのです」