加齢による体力低下から、我が子の言葉を信じてお金の管理を任せる――しかし「家族だから絶対に安心」という思い込みが、深刻な悲劇を引き起こすこともあります。ある母子の事例から、大切な財産を守る手立てを考えます。
「愚かでした…」〈年金月15万円〉81歳母、印鑑と通帳を預けた54歳息子から「もう一銭もない!」と逆ギレされ茫然 ※写真はイメージです/PIXTA

お袋の金を少し借りるだけ…

神奈川県内の住宅街で1人で暮らす小林昭子(81歳・仮名)さん。12年前に夫を看取って以来、毎月支給される15万円の公的年金と、夫婦で蓄えてきた1,800万円の預貯金で生活を続けてきました。毎月の生活費は13万円程度に抑え、将来の病気や自宅の修繕に備えていたのです。

 

しかし80歳を超えた頃から持病の関節炎が悪化し、歩くのもしんどくなりました。買い物は近所のスーパーでできるものの、年金を引き出すためには徒歩20分ほどの駅前まで行かなくてはなりません。もっと利便性の高いところへ住み替えを、と考えましたが、年齢も年齢です。頭をよぎっただけで終わりました。

 

内閣府『高齢社会に関する意識調査(高齢期の住み替えについて)』によると、昭子さんと同じ80〜84歳の高齢者で住み替えの意向が「ない」と回答した人は78.5%に上ります。また、住み替えの意向があっても実現できていない理由として、75歳以上の高齢者では「資金が不足している」(27.9%)に次いで、「健康・体力面で不安を感じる」(18.0%)や「住み替え先に馴染めるか不安」(15.6%)が上位となっています。

 

身体機能の低下で不便さを実感しつつも、住環境の変更に伴う心身の負担や生活変化への不安が、住み替えを躊躇させる大きな障壁になっています。そこで手を差し伸べたのが、近所に住む長男の小林健太(54歳・仮名)さんでした。

 

「防犯のためにも、通帳と実印は俺が預かって管理するよ。毎月の生活費もきちんと届けるから」

 

そう提案された昭子さんは、二つ返事で任せることにしました。

 

「自分の生んだ子ですし、毎週のように顔を見せてくれていました。疑う理由なんてどこにもなかったのです」

 

これが、すべての始まりでした。健太さんは当時、勤務先の給与カットにより収入が大幅に減少していました。自身が抱える住宅ローンの返済(月11万円)や高校生の息子の教育費が重くのしかかり、家計は窮地に陥っていたのです。

 

追い詰められた健太さんは、一発逆転を狙ってハイリスクな海外FX(外国為替証拠金取引)に手を出しました。しかし投資は失敗し、一晩で数百万円の損失を出してしまいます。

 

「お袋の口座から一時的に借りて、穴埋めすればすぐに戻せるはずだ」

 

健太さんは昭子さんから預かった口座から、最初は50万円、次は100万円と引き出し始めました。損失が膨らむたびに投資資金を追加投入し、歯止めが利かなくなっていったのです。